新訂万国全図 東半球・西半球(写)
日本が中央に。江戸の最先端世界地図。
雲の合間から太陽が顔をのぞかせ、光を反射した水面がきらめく。初公開となる田渕俊夫氏(79)の「明ける」は、コロナ禍に沈んだ私たちの心に希望の光を照らしてくれるような新作だ。
構図の元は2017年に再建された奈良・薬師寺食堂(じきどう)内の壁画にある。田渕氏が仏教伝来の道のりを描いた14面の中の1面で、中国から日本に向かう遣唐使船からの視点で描かれている。夜が明けるにつれて、大海原の先に浮かび上がる日本の地。船上の人々は、万感の思いで見つめたのではないだろうか。
壁画完成から3年、ほぼ同じ構図を水墨画で描き、象徴的なタイトルを付けた田渕氏。水墨画に取り組んだのは60代に入ってからだという。「見る人が自分なりの色に置き換えて、様々な見え方がするのでは」と主任学芸員の宮崎いず美さんは話す。
現代日本画壇を代表する田渕氏が生み出す多彩な美の世界。今展では画業60年の初期から新作までを館蔵品で紹介する。(※6月21日まで臨時休館中)