新訂万国全図 東半球・西半球(写)
日本が中央に。江戸の最先端世界地図。
留学先のフランスで優美な美術様式「アールヌーボー」に触れた浅井忠(ちゅう)。帰国後には、アールヌーボーと和の装飾美を融合した工芸デザインを手がけ、陶芸家や漆芸家らに図案を提供した。
2頭の猪(いのしし)がすさまじい勢いで走る様を表した本作は、浅井が描いた図案をもとに、漆芸家の杉林古香が制作した手箱。
俳句もたしなんだという浅井が、松尾芭蕉が詠んだ俳句「猪もともに吹かるる野分(のわき)かな」の情景を表現したと思われる。
秋に吹く暴風「野分」を曲線と金粉で施したあたりに、アールヌーボー特有の様式が見てとれる。「きらきらと輝く螺鈿(らでん)から、桔梗(ききょう)が風になびく様子が想像できます。猪の体を鉛で表したことで、ごわごわとした毛並みも感じとれます」と、主任学芸員の吉村有子さんは話す。