新訂万国全図 東半球・西半球(写)
日本が中央に。江戸の最先端世界地図。
夕闇を背に立つ女と顔をしかめる男。隅田川沿いの料理屋を描いた浮世絵だ。1枚の絵の中に濃淡のある黒が存在する。
煤(すす)を膠(にわか)で練り固めて作られる墨には、松の煤「松煙墨(しょうえんぼく)」と植物油の煤「油煙墨(ゆえんぼく)」の2種がある。松煙墨は粒子が粗くふぞろいで、青みを帯びた透明感のある黒になる。本作では外の暗闇に松煙墨を使っているようだ。一方、油煙墨は、粒子が細かくそろっていて、赤みのあるはっきりした黒になる。男の着物の濃い黒は、藍を刷った上からこの油煙墨を使ったと思われる。
煤の種類や膠の量による墨の違いに加え、墨と紙、水質との相性、濃淡、ぼかし、にじみなどの技法で、無限の表現方法を生む。学芸員の水野慶子さんは「水墨画などを鑑賞する時にそこに注目すると、より楽しめます」と話す。