森万里子作(東京都港区) 滑らかな曲線が美しい弧を描いて上昇しては、緩やかに下りてくる。
神戸市や大阪湾を一望する六甲山。爽やかな風が吹き抜ける標高888メートルの高台に、枝葉を張り巡らせた大樹のような建物が立つ。中には、遠くを眺める人の姿。「自然体感展望台 六甲枝垂れ」だ。
吉野産ヒノキで造形した高さ10メートルの「幹」を、ステンレスの枠に木材を組んだドーム状の「枝葉」が囲む。見学に訪れた通訳案内士の女性は「外観は一見、展望台と分からない。外国のお客さんからも、あれは何?と聞かれる」と話す。
設計は、建築家の三分一博志さん(51)。「建築がいかに地球の一部になるか」をテーマに「水や太陽などの動きを感じられるような」仕組みを取り入れた。「幹」の内部にある氷室には、展望台の隣に設けた水盤から冬、氷を切り出して保管。夏に扉を開くと冷風が吹き上がり、天然クーラーに。冬は「枝葉」に氷が付着する「樹氷」が見られる。着氷しやすいデザインを求めて実験を重ねた。
この場所には以前、座ったまま全方位を見渡す「回る十国展望台」があった。1995年の阪神大震災以降の来場者減や老朽化から、2002年に営業終了。翌年オープンした観光施設「六甲ガーデンテラス」の新展望台としてコンペを行い、三分一さんの案を選出。今月、開業10年目を迎えた。
梅雨の晴れ間、展望台は夕焼け色に染まった。ふっと吹いた風に、「枝葉」のざわめきが聞こえてきそうだった。
(木谷恵吏)
六甲ガーデンテラス 飲食店や物販店、英国風の庭園などがある。「六甲枝垂れ」の内部見学は300円。午前10時~午後9時。夜間のライトアップも。 |
展望台からバスで5分ほどの六甲山ビジターセンター(問い合わせは078・891・0616)では、六甲山の自然と歴史をパネルや写真で紹介するほか、ハイキングや自然観察会を開催。明治期、神戸の居留地を拠点に、六甲山開発に尽力した英国人貿易商の胸像も。六甲山で採れたハチミツのやまみつ(写真、980円、120グラム)は芳醇な風味が特徴。ドーナツやパイも。六甲ガーデンテラスなどで販売。