陸に上がった巨大な和船のような建物。空へこぎ出すようなその姿は、遠からず消えてしまうかもしれない。
「船の体育館」として親しまれてきた旧香川県立体育館は、世界的建築家・丹下健三(1913~2005)の設計で1964年に完成した。同年に誕生した丹下の作品には、国の重要文化財になった国立代々木競技場(東京)がある。
ワイヤで屋根を支えるつり屋根構造も代々木と同じだ。琴の弦のように約1・2㍍間隔に張られた鋼線に角形のコンクリート板をひっかけて乗せ、コンクリートの目地を打設。特徴的な曲線が目をひく。
魅力な屋根は、老朽化が進む中で耐震改修のネックにもなった。工事の難度や費用面からめどがたたず、2014年に閉館。今年2月、解体の方針が決まった。
体育館存続を求める一般社団法人「船の体育館再生の会」代表で建築家の河西範幸さん(45)は体育館とともに育ってきたと話す。2、3歳の頃から母がママさんバレーの練習をする間、周りで遊んでいた。中学時代はバドミントンの県大会の会場だった。
河西さんは大阪の大学で学んだ後、高松に戻り建築設計事務所を設立。体育館閉館が決まると、再生・保存を求める運動を始めた。「建築に携わる者なら価値は知っているはずだが、ほかにだれも声を上げなかったので」。会を立ち上げ、写真集を作ったり、署名活動をしたりしてきた。
県教委が21年、有効活用に向けて民間の意見を募った際には、周縁部だけ屋根を残した屋外型のアリーナとし、スケートボードやスポーツクライミングの場とする再生計画を事業計画と共に提出したが、費用面の条件を満たさないとされた。
県教委によると、解体に向けた準備が現在進められている。「単純に愛らしい形」にひかれるという河西さんは「なくなってから(価値に)気づくんでしょうか」と寂しそうに話した。
(中山幸穂、写真も)
DATA 設計:丹下健三+都市建築設計研究所/集団制作建築事務所 《最寄り駅》:高松駅からバス |
バスで10分の玉藻(たまも)公園(☎087・851・1521)は、生駒氏が16世紀末に築城、その後松平家の居城となった高松城の跡地。国重要文化財の艮櫓(うしとらやぐら)、月見櫓、水手御門(みずてごもん)、大正時代に建てられた披雲閣(ひうんかく)などが現存する。1945年の高松空襲で焼失した桜御門は2022年に復元された。200円。開園時間はHPを確認。12月29日~31日休み。