ゴツゴツとした、巨大な岩のような外観。最初の設計案では四角い箱形だったという。どうしてこんな形に?
上にいくほどせり出した階段状のコンクリート壁。所々に開いた天窓から光が差し込む。洞窟のような内部やいかつい外観のデザインの源は、地元のリアス式海岸にある。中でも奇観の海食洞門「穴通磯」は市民にとって「大船渡の形」だ。
劇場ホールを中心に始まった計画だったが、住民の間にはホールは必要ないという声もあった。建築家の新居千秋さん(72)は、批判が出た時は「一番関心がある時」と話す。公共施設の設計で以前から行ってきたように、住民とのワークショップを始めた。
参加したのは子どもから大人まで100人以上。ダンプカーの運転手、喫茶店主など様々な人が集まった。まずはアンケートで意見を聞く。市内を一緒に歩き、大船渡の魅力を探った後、模型キットを前に意見を出し合った。
予定にはない図書館を希望する人が多くいた。建築面積が限られる中、ホールの客席を100席減らすなどしたが、まとまったスペースをとりにくい。図書館は劇場用施設の周りを立体的に取り囲む変則回廊型になった。スロープの勾配は模型を使って、身体障害者とともに検討した。
住民らの意見は「機能的におかしくなければ受け入れる」という新居さん。ワークショップを50回以上重ねた結果、当初の案は見る影もなく変わった。変更した図面は約270枚。それでも「造った後みんなが喜んでくれたほうがいい」と話す。
複雑な形は、地震の衝撃を小さくする構造になっている。東日本大震災でも一枚も窓ガラスが割れず、多くの人の避難場所になった。
ワークショップ参加者の中には、同館でイベントを企画する人もいる。新居さんは「建物への愛着を子どもにも伝えて裾野を広げる。それが文化の継続につながる」と思いをめぐらした。
(伊藤めぐみ)
DATA 設計:新居千秋都市建築設計 《最寄り駅》 BRT田茂山 |
徒歩約20分の木町市場では、0と5がつく日の午前6時~正午に盛町市日を開催。新鮮な野菜や魚介類、手作りのお菓子などが並び、地元住民や観光客らでにぎわう。中でも人気なのは煮干し。今の時期は地元で育てた花や野菜の苗も販売。問い合わせはまるよ本店内の盛木町市場事務局(0192・27・7301)