そのカトウくんがロシア民謡のレコードを貸してくれたんです。それでロシア民謡を好きになったという縁がある。ちなみにダークダックスが歌ってるレコードだったんです。
ダークダックスとマヒナスターズは、同時代のコーラスグループなんです。マヒナというのはちょっと大人の恋愛とかそういった浮世のことを歌っている。片やダークダックスは健康的。同じコーラスグループでも対照的な色合いのグループで、自分はロシア民謡が好きというより、ダークダックスの歌うロシア民謡に、はまったという感じです。
ムード歌謡、ムードコーラスが好きだった小学生といえども、子どもらしさもそれなりにあって。ロシア民謡の叙情歌的、清純な世界観も素直に好きだったと思うんです。レコードジャケットにもロシアの雪原みたいなのが出てるんですけれど、そういうのを見ながら自然の大地の奇麗な感じも好きでした。
マヒナを聞き過ぎると少し不健全な感じが出てくるので、ちょっと心を洗われたいと思うときはロシア民謡を聞いたりとか。ロシア民謡ってストレートで直情的で、前向きになれるものかもしれない。
ロシア民謡が好きで、それが高じて、自分が成人して就職したのが東京・新宿の歌声喫茶「ともしび」でした。「前に進もう!」って音楽のせいなのか、向こう見ずで「ともしび」に訪ねていって、「働きたい!」と。ロシア民謡を歌いたいという思いが強くて、ロシア民謡の持つ情熱感によって就職までしてしまったのかも。歌声喫茶=ロシア民謡、と言っていいくらい二つは密接で。ロシア民謡ブームで、日本に歌声喫茶が根付いていったんです。みんなで歌って、みんなで肩組んで。それにふさわしい音楽なんですよね。
歌声喫茶は昭和30年代に誕生したので、カラオケができる前です。「ともしび」の人たちってある意味では家族みたいな、入ったらもう抜けられない、みたいな。抜けるにはちょっと勇気がいる。今でもちょいちょい行くんですけど、まだ、普通にそのまま、当時20代だった方が、それぞれただ老いていくというか。
僕は歌声喫茶で働いていたときにマヒナスターズに入るという話になって、「両立は無理だから」って歌声喫茶はやめました。それまでの間、そこで司会の勉強もしました。歌声喫茶での僕はリードシンガーなんだけど、あくまでお客さんを歌わせる先導役。それは結構、芸人に近いものがあって、笑わせつつ緊張をほぐしつつ、ひとつの空気感にしていかなきゃいけない。あの頃の経験が芸人につながっている気がする。