歌手でお笑い芸人のタブレット純さんが、自身のエピソードを交えながら昭和歌謡の魅力を紹介します。(撮影協力:ディスクユニオン昭和歌謡館)
ではフォークソング。フォークはラジオより、カセットテープがきっかけです。ラジオによって「自分の生まれる前の音楽がいい」と、さかのぼって好きな曲を探しているような状況があった。その頃、母の兄がうちに置いていったカセットテープのなかに森田公一とトップギャランがあって、代表曲の「青春時代」はノリの良い曲でした。その「青春時代」の次に入っていたのが「下宿屋」。これが「4畳半フォーク的」な歌で、一番琴線に触れました。
「♪しけた煙草をまわしのみ/欠けた茶わんで酒を飲み/金も無いのに楽しくて/いつも誰かに惚れていた」という、お金がなくても夢があった若者を象徴する歌詞。ムード歌謡は背伸びをした遠い世界のことのようだったけれど、フォークソングが歌う大人へのあこがれは、自分に近かった。
もっと手近な、親元から離れて一人暮らしをしてみたいみたいな、思春期の男の子が抱くあこがれだったんじゃないかな。僕はあこがれているうちに44歳になっても、フォークソングの歌詞のような生活になってしまった。結局、子どもの頃に夢を抱いていた世界が高じて、こじらせて、普通の状態になってしまいました。
ちょうど同じ時期にカセットテープで小椋佳の曲があって。この2人のフォーク系のアーティストにすごくはまった。歌詞の内容は「気づいたら青春が終わっていた」「もう1回、若さを取り戻したい」みたいな。大まかに言えば同じ世界観ですね。ちなみに小椋佳は「しおさいの詩」がカセットテープの1曲目に入っていて、「♪消えた僕の/若い力/呼んでみたい」って歌詞で。まだ本格的な思春期にさしかかってもいない小学生の頃、訳もわからず聞いていたけど、潜在意識の中では分かっていたのかもしれない。自分の将来像の歌、「こうして生きていくんじゃないか」みたいな。
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