イラストレーター・平泉春奈さん(春奈先生)の描き下ろしイラストと一緒に、性のお悩みを解決するコーナー。第10回のテーマは「女性のオーガズム」です。
性行為やセルフプレジャー(自慰)で性的絶頂を得る「オーガズム」。女性は男性と比べてオーガズムを得にくく、感じ方もわかりにくいとされています。
セクシュアルウェルネス商品を製造販売しているメーカーTENGA(テンガ)に、女性向けブランド「iroha(イロハ)」があることを知っていますか? irohaの広報担当者、金子楡(にれ)さん(27)をゲストに「女性のオーガズム」に向き合います。
アンケート結果も紹介します。11月下旬に平泉春奈さんのインスタグラム(@hiraizumiharuna0204)のストーリーズ機能を通して実施。9,130人から回答を得ました。(聞き手・田中沙織)
◇いざ、対談場所へ◇
12月中旬、対談取材のため東京都中央区の「TENGA」にお邪魔しました。オフィスビルのワンフロアに本社を構える、2005年創業のセクシュアルウェルネスグッズメーカーです。
TENGAといえば、“アダルトなおもちゃ”を作っている会社。ドキドキしながらオフィスに足を踏み入れてみると、あまりにもお洒落で、ユニークなインテリアを飾ったオフィスに度肝を抜かれました。TENGAお馴染みの“ひょうたん型“のグッズをかたどったドアや、スタイリッシュに飾られたセルフプレジャーグッズの数々! まったく嫌な感じもしません。
今回のテーマは「女性のオーガズム」。女性のオーガズムに関しては、どこまでも悩みが尽きないテーマだと感じていました。というのも「こうすればできる」という明確な正解がないから。例えば「自分はこういう風にすれば達せる」とか「パートナーとこういうことを経て、行為中に達せるようになった」と伝えられたとしても、それが他の人にも当てはまるとは限らないからです。人それぞれの感覚や性質、パートナーとの関係性などによって異なるもの。“性”にとことん向き合ったとき、ぶち当たる壁になりがちかもしれません。
――時代は、“フェムテック”
金子楡(かねこ・にれ)さん
1997年生まれ、東京都出身。
大学在学中のノルウェー留学をきっかけに、フェムテックやセクシュアルウェルネスに興味を持つ。2022年、TENGAに入社。同社が展開する様々なブランドの広報を担当。
金子: ここ数年、テレビや女性向け雑誌で、会社の取り組みや商品を取り扱っていただけるようになりました。2023年、俳優でモデルの水原希子さんにirohaアンバサダーに就任していただいてからは、認知度が広がった印象です。芸能人の方が堂々と発信する様子は、日本ではセンセーショナルな出来事だったのかもしれません。
平泉: もともと、TENGAやirohaに興味があったんですか?
金子: 学生時代から、フェムテック(女性の健康課題をIT技術など最新の手法で解決するサービスや商品の総称)に関わる仕事がしたかったんです。その一方で、性に関しては厳格な家庭で育ちました。テレビでキスシーンが流れると「教育上、良くない」と言ってチャンネルを変えられるような雰囲気です。性に興味があっても、悪いことをしているような、負い目を感じながら10代を過ごしました。
学生時代「女性と男性の地位が平等」だと聞いていたノルウェーへの留学で、性に対する価値観が日本と全く異なることを知りました。例えば、処方箋なしでアフターピルを購入できたり、コンドームが大学内にポンッと置かれていて自由にもらえたり、アダルトグッズのお店で学割が使えたり。女性同士も、カジュアルに性の話をしていました。“性”が当たり前にあるっていうことを社会全体が認めていて、自分のことを肯定されたような気がしたんです。
フェムテック関連の企業の展示会に行ったとき、irohaの広報担当者からたくさん説明を受けて「私がしたかったことはこれだ!」と入社を決めました。
平泉: 近年、フェムテックという言葉もよく耳にしますよね。響きも素敵ですし、いろんなイメージが変わってきました。
~女性のオーガズムについて~
平泉: 一昔前は、女性がオーガズムを意識することは少なかったのではないでしょうか。「セックスは、男性が射精すれば終了」という感じで、女性は受け身だった印象です。インターネットの普及や、女性向けAVの登場にともなって、自然に意識するようになりました。
金子: 言葉も変わりましたよね。「オナニー」や「マスターベーション」と言われていた行為を、我々irohaは、欧米と同じように「セルフプレジャー」と言うようにしました。“自分”を“慰める”と書く「自慰」は、どうしてもマイナスな印象に繫がってしまいます。
平泉: セルフプレジャーって、とても素敵な言葉ですよね、私が20代の頃は、そもそも「自分でする、しない」なんて話題は、なかなかオープンにできなかったな。
――女性がオーガズムを得ることの難しさ
平泉: オーガズムの経験について、アンケートを取りました。普段、どのようなお悩みを聞きますか?
金子: よく「パートナーとコミュニケーションが取れない」というお悩みをいただきます。性行為の痛みを、相手に言えなかったり、中イキできなかったりするのもその一種です。
irohaでも、女性のオーガズムについてアンケートを取ったことがあります。4人に1人が「女性はオーガズムに達しにくいと感じる」という回答でした。
性反応には男女とも同じ4つの段階があります。そのなかで男性は、オーガズムにむけて一直線で快感が進む一方、女性がオーガズムに至るまでには多様性があり、個人差が大きいため一直線にはいかない場合がほとんどです。知覚神経や脳神経など様々な条件がぴったり重ならないと、なかなか難しいことです。
iroha公式サイト「女性はオナニーしている? イクためのやり方・グッズも紹介【医師監修】」
https://iroha-tenga.com/contents/research/16409/
平泉: そもそも、オーガズムは大切なことだと思いますか?
金子: 個人的には「あってもなくてもいいんじゃないかな」という気持ちです。たしかに、感じられることはうれしいことかもしれませんが、執着するものではないと思うんです。irohaのお客様のなかには「中イキできなくて、しんどい、悲しい」という声もよくいただきます。体験してみたい気持ちやあこがれはわかるのですが「できない」から、悲しい気持ちや「体がおかしいのか?」といった不安に繫がるのはつらいですよね。
そもそも、オーガズムってとてもハードルが高いものです。今回のアンケートで76%の方が経験されているのは、少し驚いたくらいです。
平泉: そうですよね。「はい」と答えた方のなかには、オーガズムではないけれど、痙攣などオーガズムに近い感覚を得て「経験した」と思っている人もいるかもしれません。そのくらいオーガズムは難しいことだということなので、24%の方も決して不安にならないでほしいです。
オーガズムって、時間をかけてセックスやセルフプレジャーに向き合ってきた人が得られる感覚なのかも。
金子: 女性によっては、脳内シミュレーションをしたり、セルフプレジャーで自分の快感を探したり、オーガズムを体験するためにとても努力されていますよね。
平泉: もっと気持ち良くなりたいという欲求が出て、初めて向き合うテーマであって、最初から簡単に得られるものではないということですよね。
金子: セルフプレジャーをすることに対して、罪悪感を覚えてしまう女性も多いそうです。そのような方に対して、行動療法の先生は解決策のひとつとして「セルフプレジャー後に、布団のシーツを替える」という方法をおすすめされていました。「行為=悪いこと」とならないように「シーツを綺麗なものにする」という“良いこと”として認識できるようになるそうです。
<ちょこっと豆知識>
中イキとは……
膣内のGスポット(膣の入り口から数センチの膣壁にある小さなエリア)など、感度の高い部分を刺激することで起こるオーガズム。「Gスポットの存在には個人差がある」という意見もあるそうです。
――パートナーとの関係
【お悩みエピソード】
セルフプレジャーではオーガズムを得られるけれど、彼氏との行為では感じることができません。前戯が短いのもあるし、して欲しいことをうまく伝えられなくて、消化不良のことが多いです。勇気を出して伝えられたとしても次につながらないこともあり、毎回言うのにも抵抗があります。気恥ずかしさもあり、彼を傷つけないように伝えるには、どのようなタイミングで、どのように伝えると良いでしょうか。
平泉: このほかにも、パートナーとの性行為で「演技をしてしまう」というお悩みも多く届きました。やはり、オーガズム自体が絶対必要なものではないですし、そもそも難しいことだということですよね。
満足できない気持ちを伝えるときも、相手を責める言い方ではなく「エッチは気持ちいいんだよ」と伝えたうえで、好きだからこその悩みを伝えられるといいですね。
金子: 日常的に話し合える関係も、素敵です。いきなり性的な悩みを話してしまうと、行為中に緊張感が漂ってしまう場合もあります。
セックス後の「感想戦」も、性的な悩みを伝え合える関係を築くための、方法のひとつではないでしょうか。「これが良かった」「今度はこういうことをしてみたい」という、否定ではなく前向きな会話が大切です。
そして、オーガズム以外にも、パートナーとのセックスを良くする方法はたくさんあります。
平泉: いきなり理想的なカップルになるのは無理だからこそ、頑張って努力することが大切。素敵な関係を築いていってほしいですね。
<ちょこっと豆知識>
――正しいセルフプレジャーとは
平泉: セルフプレジャーで、NGな行為ってあるんでしょうか?
金子: 男性の場合は、まちがったセルフプレジャーのしすぎで射精できなくなる「膣内射精障害」があります。妊活に影響してしまう場合があるので、注意が必要です。
女性は、衛生面はもちろんですが、体を傷つけるような刺激の与え方は避けていただければと思います。例えば、机の角に陰部をこすりつける行為などです。
~セルフプレジャーグッズについて~
――女性のためのグッズをつくる、商品につまった想い
平泉: 年齢の他にも、一人暮らしや実家暮らしによって、使用経験の有無は変わってきそうですね。グッズのデザインも、昔と比べて大きく変わりました。
金子: 2013年「性を表通りに 誰もが楽しめるものに変えていく」というTENGAのミッションのもと、男性だけではなく女性もターゲットにしたいということでirohaが立ち上がりました。基本的に、製造から広報までほぼ全てを女性が担当しています。女性が、女性のために、自分が使いたいと思えるものを目指しています。
平泉: TENGAが立ち上がった2005年当時は、女性向けはもちろんのこと、そもそもアダルトグッズは18禁ののれんをくぐって買うような、今ほどオープンな売られ方はしていない時代ですよね。デザインも「卑猥」というか。
金子: 体に使うものなのに、製造国や問い合わせ先もわからないような商品ばかりだったそうです。創業者は、人間の三大欲求のひとつである「性欲」が特殊で卑猥なものとして扱われていることに疑問を持ち、自らアダルトグッズをつくることを決めたそうです。
当時の女性向けグッズも「男性が女性に使いたくなるもの」。女性の体のことを考えられていない乱暴なつくりでした。特に日本に流通していた海外製は、日本人女性の体に合っていない太さやデザインで、カラーもビビットなものばかり。irohaは、日本人女性が使いやすいデザインも大切にしています。人を想起させないデザインや、ネイルをしている人に配慮して、指の腹でボタンを押せるようにしているんですよ。
――“アダルトグッズ”から、“セルフプレジャーグッズ”へ 女性社員たちの活動
金子: 口に出して恥ずかしくない言葉選びをしたいという想いで、我々は積極的に「セルフプレジャーグッズ」という言葉を使ってきました。自分なりの喜びを見つけていただきたいと願っています。
平泉: 活動を続ける中で、挫折を感じたり、ネガティブな反響を受けることはありましたか。
金子: 私は働き始めて約2年半で、すでにフェムテックブームもあったので、特につらい経験はありませんでした。しかし、立ち上げ当初の先輩社員たちは、セクハラまがいなことを言われることもあったそうです。ポップアップ店では、我々が女性だということで、からかいのような目を向けられることもあります。
しかし「こういう人たちが頑張って作っているんだ」と安心してグッズを使用していただけるように、顔を出してPR活動することも大切だと感じています。
――女性が、セルフプレジャーグッズを使用すること
平泉: アンケートでは、女性やカップルでグッズを使用することに対するイメージも聞いてみました。
<自分で使用することに対して>
ポジティブ意見ネガティブ意見
・一人で使用することに対して、少し後ろめたさを感じる。カップルで使用する事に対しては「相手を考えられていて仲が良いな」と思える。
・「女の子なのに一人で使うのは変かな?」と思い、パートナーには言えずに使用している。
・性欲が強いイメージを持たれそうで、使用していることを他の人に知られたくない。
<パートナーと一緒に使用することに対して>
ポジティブ意見ネガティブ意見
・「自分では満足させてあげられなくなりそう」と、受け入れてくれない男性もいるのでは?
・行為中に彼女がグッズで気持ち良くなっていることに対して、嫉妬してしまう。
・セックス中にパートナーから機械を使用されるのは、大切に扱われていない気がして少し嫌だ。
・使うのは楽しいけれど、相手から「使おう」と言われると「愛のある性行為じゃなくなるのでは?」と思ってしまう。
・AVと同じことをしている気持ちになって、良い印象を持てない。
<その他>
・たとえネットでも、買うのが恥ずかしくて躊躇いがある。
・使用していることを家族に知られたくないし、隠す方法が分からない。
金子: 「自分では満足させてあげられなくなりそう」と感じてしまう男性は多い印象です。セルフプレジャーとセックスは違うというのを、受け止めていただくのもひとつではないでしょうか。戦う必要はないと思うんです。
平泉: 一緒にセックスするときに、自分が彼女に行う前戯や行為と比べて、グッズを使用してあげるとより満足できている彼女の姿をみて「負けた!」と感じてしまう男性はいるのかもしれませんよね。
グッズだけに頼るのではなく、使い方次第ではないでしょうか。
金子: セックスのときにグッズも共存できるようになると良いなと感じます。タイミングや使用量に加えて、きちんと気持ちを伝えあって使用していただきたいです。
平泉: 「グッズの使用=愛のあるセックスではない」というイメージもあるようですが。
金子: 相手を想って使用してくれている場合もあるので、一概に「愛のないもの」ではないと思うんです。
irohaは「女性に、自分のためのセルフケアとして使ってほしい」と言い続けてはいますが、もちろんパートナーと一緒に使用していただいて大丈夫ですし、TENGAではパートナーと一緒に使用できるグッズも出しています。
平泉: 家庭環境における性への価値観などが「使用することへのうしろめたさ」に繫がっている人も多そうですね。
金子: 個性のひとつですし、楽しめるものが多いということです。“むしろプラス!”という意識でも良いのかもしれないですね。
TENGAは常設店も構えていて、20代や30代くらいのカップルが楽しげに買いに来てくださいます。テレビでの放送をきっかけに、60代以上の方が来てくださることも。インバウンド効果もあってか、海外のお客さまもいらっしゃいます。日本製というところにも魅力を感じて下さっているそうです。
――興味がある人や、悩みを抱えた人に向けて
平泉: まずは、焦らないでほしいなと願っています。焦るほどオーガズムを感じにくくなりますし、なにより大切なのは二人の信頼関係。信頼の先にオーガズムがありますし、当たり前のように性の話ができたり、普段から思っていることを何でも伝え合える関係であるのが理想ではないでしょうか。
オーガズムを得られないことに悩んでいる方は「気を遣っていないか」「相手がどう思うか怖くて、言えていないことはないか」など、相手との関係性を見つめ直すことも解決方法のひとつではないでしょうか。
二人の関係を密にできるよう努力したり、自分の体の仕組みを理解したり、性に対する積極性を磨いていくことも必要です。
金子: お話しを通じて、改めて「人と比べないこと」が大切だと感じました。セルフプレジャーであっても、セックスであっても、当事者が本当に気持ち良いと感じられているかどうかが最も大切。そのための選択肢のひとつとして、irohaを活用いただけると嬉しいです。
平泉: 人によって感じ方は違いますし、目の前の相手と向き合うことが大切ですよね。
金子: 素敵ですよね。相手とのセックスでしか味わえないもの、自分でしか味わえないものもあります。探っていけると良いですね。
<対談を終えて>
ー “女性の性の在り方”を、答え合わせ ー
まぶしいくらいに、キラキラしたオーラをまとったirohaの広報担当・金子さん。 驚くほど性に対してオープンな方で「ここは、働いてる人みんなが、自然とそんなふうになれる場所なんじゃないかな」と感じました。
金子さんは、私が今まで考えてきた「女性の性」に対する想いと、ほとんど同じ意見をお持ちでした。まるで世の中の女性の性の悩みに対する答え合わせができたような、すごくホッした時間。
実際に、irohaのセルフプレジャーグッズもいくつか手に取ってみたのですが、これまた繊細な作りでびっくり!
肌触りからバイブレーションの精密さから、本当に素晴らしかった。おしゃれで可愛い、持っていることに妙な罪悪感なんて1ミリも持たずに済むデザイン。
会社にお邪魔し対談するという、貴重な機会をいただくことができました。
平泉春奈
イラストレーター
愛と美と官能をテーマに、カップルイラストや短編小説を創作。3冊目の著書「私たちは愛なんてものに」(KADOKAWA)を発売。
次回は2月1日に公開予定です。