明治20年代、西洋化が進む中で西洋画の対置として広まったのが、日本画という概念です。近代国家の形成に伴い、既に身近にあった絵画の総称として呼ばれました。横山大観(1868~1958)は、近代日本美術の礎をつくった思想家、岡倉天心に師事。岡倉や画家の菱田春草らと共に日本美術院を設置し、日本画の発展を牽引(けんいん)していきました。
大観と親交が深く、多くの画家を支援し作品を収集したのが、山種美術館の創設者で実業家の山崎種二です。「絵は人柄である」と言うほど、画家との交流を大切にしたと言います。そんな山崎が、大観から美術館の創設を条件として、購入を許された作品が「心神」です。
第2次世界大戦以前、富士山や桜は日本の象徴として描かれました。大観は生涯で2千枚以上の富士山を描いたそうです。「心神」は戦後の作品。戦争に敗れた日本人の心の支えとなった霊峰を俯瞰(ふかん)して描き、自然の美しさを捉えました。
一方、奥村土牛(とぎゅう)(1889~1990)は、山水画や花鳥画を手がけ、ひたすら対象を観察した画家です。「醍醐」は80代の時の作品。土塀を背景にした桜が美の極致だと気づき、写生を繰り返し、約10年かけて完成させました。
日本美術を先導した大観と、対象を通じ自身を見つめた土牛。両画家の生き方が見て取れます。
(聞き手・吉田愛)
★どんなコレクション?
山種証券(現・SMBCフレンド証券)の創立者、山崎種二(1893~1983)が収集したコレクションをもとに、日本画専門美術館として1966年に東京・日本橋の兜町で開館。現在、近現代の日本画を中心に重要文化財を含む約1800点を所蔵する。常設展示はなく、所蔵品から年5、6回の企画展を開催している。
「心神」は1月3日~2月25日開催の「横山大観 東京画壇の精鋭」、「醍醐」は3月10日~5月6日開催の「桜 さくら SAKURA」で展示予定。
《山種美術館》 東京都渋谷区広尾3の12の36。午前10時~午後5時(入館は30分前まで)。1000円。原則(月)と12月25日~1月2日休み。
美術史家、東京芸大教授 佐藤道信 さとう・どうしん 1956年生まれ。東北大大学院修士課程修了。東京国立文化財研究所などを経て東京芸大勤務。専門は日本近代美術史。主な著書に「日本美術 誕生」「美術のアイデンティティー」ほか。 |