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目利きのイチオシコレクション

現代美術 DIC川村記念美術館

ロスコを堪能できる空間

マーク・ロスコの「シーグラム壁画」(1958~59)による一室
マーク・ロスコの「シーグラム壁画」(1958~59)による一室
マーク・ロスコの「シーグラム壁画」(1958~59)による一室 ジャクソン・ポロック「緑、黒、黄褐色のコンポジション」1951年

 現代美術のとらえ方は様々ですが、「抽象表現主義」に焦点を当てて紹介します。

 抽象表現主義は、第2次世界大戦後~1950年代ごろ、米国で隆盛した抽象絵画を指します。特徴は大きい画面や、革新的な技法で表現したことで、代表的な作家はマーク・ロスコやジャクソン・ポロック、アド・ラインハートなど。彼らは西欧のシュールレアリスムの芸術家たちと交流し、多大な影響を受けました。その成果を見られるのが、DIC川村記念美術館です。

 ロスコの作品だけを展示する「ロスコ・ルーム」には、連作「シーグラム壁画」の7点が並びます。この連作は、ニューヨークのシーグラムビル内のレストランに飾る予定でした。しかし、オープン直後のレストランを訪れたロスコは、雰囲気が気に入らず契約を破棄。30点の作品は、DICやロンドンのテート・ギャラリーなどに分けて収蔵されました。DICでは、自作のみ並べることを望んだロスコが、実現させたかったであろう空間を体感できます。

 ポロックは独特な技法を生み出した画家です。キャンバスを床に置き、筆や棒に付けた絵の具を上から滴らせたり、まき散らしたりして縦横無尽に自由に描きました。ここには、彼らから影響を受けたサイ・トゥオンブリーの作品もあり、充実したコレクションで、戦後米国の美術の流れを堪能できます。

(聞き手・吉田愛)


 コレクションの概要

 DIC(旧・大日本インキ化学工業)創業家2代目の川村勝巳(1905~99)が、70年代初頭からピカソやカンディンスキーなどの西欧美術を収集。3代目の茂邦(1928~99)が戦後の米国美術を数多く集めた。90年、同社研究所の敷地内に美術館を開館。20世紀の絵画を中心に、レンブラントの肖像画や横山大観の日本画など約1千点を収蔵する。

 「ロスコ・ルーム」は通年、「緑、黒、黄褐色のコンポジション」は7月2日まで展示。

《DIC川村記念美術館》 千葉県佐倉市坂戸631。午前9時半~午後5時(入館は30分前まで)。(月)((祝)の場合は翌日)休み。入館料は企画展示によって異なるため、詳細は問い合わせを。問い合わせは050・5541・8600。

木村泰司さん

武蔵野美術大学教授 田中正之さん

たなか・まさゆき 西洋の近現代美術史が専門。東京大・美術史学科卒業後、同大学院を経てニューヨーク大大学院美術史研究所で学ぶ。国立西洋美術館で学芸員として11年勤務。5月に共著「西洋美術の歴史 8巻」(中央公論新社)が発売予定。

(2017年5月2日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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