旧財閥・住友家の旧蔵品を展示する当館コレクションの中でも、約400点の中国古代青銅器はその中心です。専用の展示室を設け、様々な角度から作品を紹介しています。
中国では約4千年前から宗教儀礼に用いる祭器をはじめ複雑な形や文様の青銅器が数多く生み出され、そのピークは約3千年前の殷周時代とされます。しかし、青銅鏡はそうした青銅容器が衰退した秦漢時代(紀元前3~紀元3世紀)以降も青銅器文化の中心として展開されました。
「方格規矩四神鏡(ほうかくきくししんきょう)」からは古代中国の「天は丸く、地は四角(天円地方)」という考え方がよみとれます。鈕(きゅう)(つまみ)を中心に四角(方格)は大地、その外側の円が天を表します。
方格の各辺の中央から突き出たT字形は天を支える柱と梁(はり)。外の円に接し、方格の角と向き合うV字形と、四つのVの中間にあるL字形はそれぞれ大地と天をつなぐロープやそれを巻き取る器具を示すと考えられます。天地は一体であることを表した文様で、当時の人々の世界観がうかがえます。
天には青竜(せいりゅう)・朱雀(すざく)・白虎(びゃっこ)・玄武(げんぶ)の四神の姿も文様として表されていますが、これらは天空の星座を表現したと考えられます。青銅鏡の中には現世利益を願う銘文が記された例もあり、2千年以上前に生きた人々の人間らしさを垣間見ることもできます。
「画文帯同向式神獣鏡(がもんたいどうこうしきしんじゅうきょう)」は大型前方後円墳の久津川車塚古墳(京都府城陽市)で出土した7面の鏡のうちの1面です。明治時代に奈良鉄道(現JR奈良線)敷設工事中、石棺や副葬品が発見されたのがきっかけで発掘調査されました。
鈕の左右に西王母と東王父、上段に琴の名手とされる伯牙ら神話上の仙人像が配置され、さらに文様や銘文などが表されます。鏡の製作年代と古墳の造営年代に200年近い差があることから、中国から伝来後、長期間使用された伝世鏡と考えられます。
(聞き手・片野美羽)
《泉屋博古館》京都市左京区鹿ケ谷下宮ノ前町24(☎075・771・6411)。午前10時~午後5時(入館は30分前まで)。2点は11月3日~12月10日展示。800円。原則(月)、展示替え期間など休み。
学芸員 山本 尭 やまもと・たかし 1988年生まれ。東京大学大学院人文社会系研究科博士課程単位取得退学。博士(文学)。専攻は中国考古学。2018年から現職。 |