読んでたのしい、当たってうれしい。

私のイチオシコレクション

国立民族学博物館

強さの象徴 英国軍にあやかる

国立民族学博物館
ファンティの軍旗 1940年ごろ ガーナ 縦94×横168センチ
国立民族学博物館 国立民族学博物館

 世界の諸民族の文化や社会を紹介する当館の地域別の展示。西アフリカ・ガーナ共和国の「ファンティの軍旗」はアフリカの展示場で常に2点ほど展示しています。

 ファンティは同国南部のギニア湾沿岸に住む民族です。かつて近隣民族との争いに備えた「アサフォ」と呼ばれる集団が町ごとに作られました。その旗印がこれらの軍旗です。

 ご紹介する2点どちらも左上に英国国旗ユニオンジャックがみえます。この地域が英国統治下に置かれたのは19世紀初めですが、英国はそれ以前から金(きん)を目当てに拠点を置いていました。ファンティの人々は軍隊の制度や行進や礼砲などの儀礼、軍旗を掲げることなど英国流を導入。英軍艦にはためくユニオンジャックは強大な武力の象徴として採り入れられました。

 それとともにアップリケされたのが、動物や乗り物といった絵柄です。絵柄や組み合わせはことわざを元にしていて、士気を高めるメッセージが込められています。

 写真左の軍旗は右上に黒い翼竜、左下に椅子につながれたヒョウ、間に立つ人の指の先に小鳥を配しています。これらが伝えるメッセージは「我らは恐ろしいドラゴンとともにあり、ヒョウも手なずけた。なにゆえ小鳥のごときお前たちを恐れることがあろう」となります。

 写真右の、中央に双頭のワシ、右上と左下にヘビがいる軍旗は「我々ににらまれたら、逃げ場はない」という意味で、自軍をワシ、敵をヘビになぞらえています。

 軍旗が作られ始めたのは19世紀初めごろ。西洋から押し寄せる異文化をアフリカの人々が消化し、自らの文化に採り入れていった過程がみてとれます。西欧から見たアフリカのイメージでは見落とされるものがそこには刻印されています。 

(聞き手・吉﨑未希)


 《国立民族学博物館》 大阪府吹田市千里万博公園10の1(問い合わせは06・6876・2151)。[前]10時~[後]5時(入館は30分前まで)。[水]([祝]の場合は翌日)休み。本館展示は580円。

よしだ・けんじ

館長 吉田憲司

 よしだ・けんじ 2017年から現職。専門はアフリカの造形と儀礼、博物館・美術館での文化の表象のあり方の研究。

(2022年11月1日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

私のイチオシコレクションの新着記事

  • 似鳥美術館 北海道で生まれた家具のニトリが開いた「小樽芸術村」は、20世紀初頭の建物群を利用して、美術品や工芸品を展示しています。

  • 太陽の森 ディマシオ美術館 フランスの幻想絵画画家として活躍しているジェラール・ディマシオ。彼が制作した縦9×横27㍍の巨大な作品が当館の目玉です。1人の作家がキャンバスに描いた油絵としては世界最大で、ギネス世界記録にも内定しています。

  • 宮川香山眞葛ミュージアム 陶芸家、初代宮川香山(1842~1916)が横浜に開いた真葛(まくず)窯は、輸出陶磁器を多く産出しました。逸品のひとつが「磁製緑釉蓮画花瓶(じせいりょくゆうはすがかびん)」です。

  • 小泉八雲記念館 小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)が『怪談』を出版して今年で120年。『怪談』は日本の伝説や昔話を、物語として再構築した「再話文学」。外国で生まれ育った八雲が創作できたのには妻の小泉セツの存在が欠かせません。

新着コラム