当館の収蔵品の柱の一つ、約7千点の南蛮美術は神戸の資産家・池長孟(1891~1955)のコレクションを受け継いだものです。
池長は昭和初めに新築した西洋風邸宅のために長崎版画を購入したのを皮切りに精力的に南蛮美術を収集、自ら美術館を創設するまでになりました。しかし戦後、コレクションは散逸の危機にひんし、神戸市に寄贈されました。
六曲一双の「南蛮屛風」は、豊臣秀吉に気に入られた絵師・狩野内膳(1570~1616)が、異国での南蛮船出港を左隻に、おそらく長崎への入港を右隻に描いています。
「南蛮屛風」は世界に90点以上ありますが、これほど細部まで描写が行き届いた例はありません。肌の色や表情、小物や旗、左隻左下の象の脚のしわまで丁寧に描かれています。修道士の衣服を所属する修道会によって区別している点なども興味深いです。
内膳は外国に行ったことはないので、左隻の出港地は想像から描いたでしょう。中国絵画の技法に学んだ狩野派の伝統を反映し、人物や風景の描き方に中国風なものが表れています。
「聖フランシスコ・ザビエル像」は1920年、現在の大阪府茨木市の民家で発見されました。一見油絵のようですが、西洋人宣教師の監督の下、日本人が日本的技法で日本人のために描きました。禁教の時代、掛け軸のように巻いた状態で「開かずの箱」に隠されていたようです。池長はこれを譲ってほしいと持ち主に何度も懇願、そのために別宅1軒を売るほどの大金でようやく入手しました。
(聞き手・隈部恵)
《神戸市立博物館》 神戸市中央区京町24(問い合わせは078・391・0035)。前9時半~後5時半(入館は30分前まで)。「聖フランシスコ・ザビエル像」はレプリカを常設展示。300円。原則月休み。
学芸員 塚原晃 つかはら・あきら 1991年から現職。17~19世紀日本の洋風美術全般を視野に展覧会を企画。常設展示「聖フランシスコ・ザビエル」の新設にも携わる。 |