読んでたのしい、当たってうれしい。

私のイチオシコレクション

岡田美術館

一見地味? 秘められた思い

「色絵輪宝羯磨文香炉」 野々村仁清 1657年<br> 高さ12.3センチ、胴径19.8センチ 重要文化財
「色絵輪宝羯磨文香炉」 野々村仁清 1657年
 高さ12.3センチ、胴径19.8センチ 重要文化財
「色絵輪宝羯磨文香炉」 野々村仁清 1657年<br> 高さ12.3センチ、胴径19.8センチ 重要文化財 「色絵竜田川文透彫反鉢」 尾形乾山 18世紀 重要文化財

 江戸時代前期に活躍し、「京焼の祖」とも言われる野々村仁清。華やかな色絵作品のイメージがあると、当館の「色絵輪宝羯磨文香炉」は少々地味に映るかもしれませんが、とても重要な作品です。

 その理由は高台の内側、「奉寄進 播磨入道 仁清作 明暦三年 卯月日」という刻銘にあります。仁清の作品には「仁清」印がおされたものが多い中、銘文が刻まれ、制作年がはっきり分かるものはこれを含め2点だけです。

 制作年が明らかなもう1点は、これと形、大きさ、銘文がうり二つの香炉で藤田美術館(大阪市)が所蔵しています。その箱書きには、技術向上の祈願が満願したお礼として香炉を作り、いずれも京都の安養寺と仁和寺、槙尾(西明寺か)の3カ所に寄進、その中の安養寺のものと書かれています。

 当館の香炉は仁和寺に寄進されたものと伝えられています。仁和寺は仁清が門前に窯を構えたゆかりの場所です。残り一つの香炉は発見されていません。

 奉納のため自身の意思で作った作品は、そのはしばしから仁清の気合を感じます。ろくろの名手の名に恥じない美しい形。密教法具である輪宝と羯磨の文様は輪郭が金で丁寧に縁取られています。

 仁清の弟子、尾形乾山の「色絵竜田川文透彫反鉢」は紅葉の名所・竜田川をモチーフとしますが、横から眺めても川だとは分かりません。水流は鉢の内側に描かれています。

 例えばお茶会の菓子鉢として使われると、菓子を取ろうと中をのぞいて初めて竜田川の器だと分かる。使ってこそ楽しめる、乾山らしい作品です。

聞き手・高木彩情


 《岡田美術館》 神奈川県箱根町小涌谷493の1(問い合わせは0460・87・3931)。午前9時~午後5時(入館は30分前まで)。2800円。香炉は常設展示、反鉢は12月18日まで「花鳥風月」展で展示中。12月31日、1月1日、展示替え期間休み。

名前ひらがな

学芸員 塩谷尚子

 しおや・なおこ 2013年から現職。企画展「仁清と乾山」、「DOKI土器! 土偶に青銅器展」などを担当。「360度から楽しめるのが器の魅力」と話す。

(2022年6月14日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

私のイチオシコレクションの新着記事

  • 京都国立博物館 中国・唐と日本の技術を掛け合わせた陶器「三彩蔵骨器」。世界に日本美術を体系的にアピールするため、「彫刻」として紹介された「埴輪(はにわ)」。世界との交流の中でどのようにはぐくまれてきたのでしょうか?

  • 昭和のくらし博物館  今年は「昭和100年」ですが、昭和のくらし博物館は、1951(昭和26)年に建った住宅です。私たち小泉家の住まいで、往時の家財道具ごと保存しています。主に昭和30年代から40年代半ばのくらしを感じられるようにしています。この時代は、日本人が最も幸福だったと思います。日本が戦争をしない国になり、戦後の混乱期から何とか立ち直り、明るい未来が見えてきた時代でした。

  • 国立国際美術館 既製品の中にある織物の歴史や先人の営みを参照し、吟味し、手を加えることで、誰も見たことのないような作品が生まれています。

  • 滋賀県立美術館 画面を埋め尽くす幾何学模様の正体は……。人に見せるためにかかれたのではない、アートが発する魅力。

新着コラム