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大阪中之島美術館

「大大阪」の風景 最先端を描く

「街景」 小出楢重 1925年 油彩・カンバス 縦53.1×横73.2センチ
「街景」 小出楢重 1925年 油彩・カンバス 縦53.1×横73.2センチ
「街景」 小出楢重 1925年 油彩・カンバス 縦53.1×横73.2センチ 「複雑なる想像」 花和銀吾 1938年 コラージュ・アッサンブラージュ 縦39.2×横45.2センチ×厚さ6.5センチ

 大阪市の中心地に今年2月にオープンした当館。「みんなのまち 大阪の肖像」と題した開館記念展で、大阪の魅力を様々な作品から紹介しています(第1期は7月3日まで、第2期は8月6日~10月2日)。

 「街景」は当館のある中之島周辺の大正末期の姿を、大阪の商家に生まれた小出楢重(1887~1931)が描きました。手前のドーム屋根は、今はない福徳生命保険ビル。船が行き交う川の両岸には日本家屋とともにビルや洋風建築が並びます。

 1920年代、人や産業が集中した大阪では都市化が急速に進みました。その最先端の風景を小出はかなり正確に描いています。それぞれ開発される建物群が全体として織りなす、リズムのようなものを面白いと思ったのでしょう。街の骨格が形作られ、大都市大阪がまさに誕生しつつある様子をとどめた重要な作品です。

 「複雑なる想像」は、立体的なコラージュ作品です。女性の写真をベースに、コードや歯車、ネジなどを貼り付けてあります。下のほうの二つのかけらは女性の腹部からはがれ落ちたという設定で、女性は実は機械じかけだったというストーリーを表しています。

 作者の花和銀吾(1894~1957)は東京帝大を出て大阪の住友本社に勤めながら、アマチュア写真家がつくる「浪華写真倶楽部」に属していました。

 写真が芸術の一手法として注目されつつあった時代、ドイツなどの最新の潮流も取り込んだ独自の前衛表現で、実験精神にあふれています。大阪を舞台に彼のような存在が日本の写真界をリードしていたことは、美術史の一つの側面といえます。

(聞き手・伊東哉子)


 《大阪中之島美術館》 大阪市北区中之島4の3の1(問い合わせは、なにわコール06・4301・7285)。午前10時~午後5時(入場は30分前まで)。2点は7月3日まで展示。1200円(1期と2期のセット券は2千円)。[月]([祝]の場合は翌平日)休み。

すがや・とみお

菅谷富夫 

 すがや・とみお 滋賀県陶芸の森学芸員を経て1992年に大阪市立近代美術館建設準備室学芸員。2019年から現職。

(2022年5月17日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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