木版画「髪梳ける女」や「吾輩ハ猫デアル」の装丁で知られる鹿児島市出身の橋口五葉(1881~1921)。当館は2千点に及ぶ作品や資料を所蔵しています。没後100年の今年、5回の所蔵品展で五葉を紹介、11日からはデザインの仕事に着目した展示を行います。
「此美人」は、百貨店の三越呉服店が募集した懸賞ポスターで1位になった作品です。流行の束髪にリボンをあしらい、指輪や帯留めなど新しいおしゃれを採り入れた最先端の女性像を描きました。女性が手に持つのは浮世絵の本で、三越が打ち出していた江戸ブームを意識しています。審査では満場一致で決まりました。
まだポスターになじみの薄かった当時、五葉はただ絵を描くのではなく、デザインをして装飾性を高めることによって人目を引くのがポスターだとよくわかっていました。西洋画を学んだ東京美術学校時代はアールヌーボーの全盛期で、西洋のデザインなどに触れています。さらに入学前に日本画を学んだ経験や浮世絵への関心もあって、独自のデザインを築いたといえます。
油絵による室内装飾画の「孔雀と印度女」はイギリスのラファエル前派の影響や当時の日本画壇にあったインド趣味を感じさせる作品です。女性とともにたくさんの花が描かれ、脚部の装飾も五葉のデザインです。花好きで植物の精密なスケッチが数多く残る五葉は、細かな描写力があったからこそ簡略化したデザインを生み出すことができたのです。
五葉は39歳で亡くなりました。短い生涯でのマルチアーティストぶりをぜひ知っていただきたいです。
(聞き手・三品智子)
《鹿児島市立美術館》 鹿児島市城山町4の36(問い合わせは099・224・3400)。午前9時半~午後6時(入館は30分前まで)。300円。原則(月)、年末年始休み。「没後100年 橋口五葉-2装飾への関心―デザインの仕事」は10月10日まで。
学芸員 稲葉麻里子 いなば・まりこ 2014年から現職。専門は西洋美術・工芸・デザイン。郷土作家らのグラフィックデザインを紹介した展示「乙女のモダンデザイン~大正イマジュリィの世界~」などを担当。 |