読んでたのしい、当たってうれしい。

私のイチオシコレクション

益子陶芸美術館

若い才能育んだ 英国の工房

益子陶芸美術館
浜田庄司「鉄絵壺」 1922年ごろ 高さ19×幅20センチ
益子陶芸美術館 益子陶芸美術館

 益子を拠点にした陶芸家浜田庄司(1894~1978)と英国人陶芸家バーナード・リーチ(1887~1979)が英南西部のセントアイブスに工房を築いて昨年で100年。当館ではリーチの功績を紹介する企画展で2人の作品のほか、工房で学んだ陶芸家の作品も展示しています。

 幼少期を日本で過ごしたリーチは、日本に憧れて再来日し、窯を開いていた千葉・我孫子で浜田と出会います。意気投合した浜田を伴って帰国すると、芸術家も多く住む港町に登り窯を設けました。浜田は23年まで英国に滞在し、ロンドンで初個展も開催。東洋陶磁への関心を背景に成功を収めます。

 「鉄絵壺」は英国時代の浜田の作品です。白地の部分には、その後の作品にもよく用いた刷毛目が見られます。土や釉薬など材料に恵まれていたとは言えない環境で、作家としてまだ若く、荒々しさも感じられる一品。画家を志した時期もあり、文様の筆さばきのうまさには、絵画の能力もいかされているのでしょう。

 英国時代の主な作品の多くは英国にあり、浜田の初期作品は日本にあまり残っていません。どんな作家も初期には個性がよく表れます。これも浜田らしい作品の一つかと思います。

 「皿」は、リーチの最初の弟子マイケル・カーデュー(1901~83)の作品です。素地に化粧土をかけて模様を描く「スリップウェア」を制作、廃れかけた技法の再興に貢献しました。オックスフォード大を卒業後、陶芸の道に入り、生活に溶け込む器を多く残しています。一方で芸術作品を作る人にも影響を与え、現代英国陶芸の礎を築いた一人です。

(聞き手・伊藤めぐみ)


 《益子陶芸美術館》 栃木県益子町益子3021(問い合わせは0285・72・7555)。午前9時半~午後5時(11月~1月は4時まで。入館は30分前まで)。「鉄絵壺」は常設、「皿」は8月22日まで企画展で展示。600円。(月)((祝)(休)の場合は翌日)休み。

かわきた・ゆうこ

学芸員 川北裕子

 かわきた・ゆうこ 2013年から現職。「土と抽象」「加守田章二 天極をさす」など現代陶芸やうつわをテーマにした企画展を多数担当。

(2021年7月27日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

私のイチオシコレクションの新着記事

  • 似鳥美術館 北海道で生まれた家具のニトリが開いた「小樽芸術村」は、20世紀初頭の建物群を利用して、美術品や工芸品を展示しています。

  • 太陽の森 ディマシオ美術館 フランスの幻想絵画画家として活躍しているジェラール・ディマシオ。彼が制作した縦9×横27㍍の巨大な作品が当館の目玉です。1人の作家がキャンバスに描いた油絵としては世界最大で、ギネス世界記録にも内定しています。

  • 宮川香山眞葛ミュージアム 陶芸家、初代宮川香山(1842~1916)が横浜に開いた真葛(まくず)窯は、輸出陶磁器を多く産出しました。逸品のひとつが「磁製緑釉蓮画花瓶(じせいりょくゆうはすがかびん)」です。

  • 小泉八雲記念館 小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)が『怪談』を出版して今年で120年。『怪談』は日本の伝説や昔話を、物語として再構築した「再話文学」。外国で生まれ育った八雲が創作できたのには妻の小泉セツの存在が欠かせません。

新着コラム