当館の収蔵品の核となるのは、「椿会(つばきかい)美術展」や「現代工芸展」など資生堂が文化・芸術活動の支援として長年主催してきたグループ展の出品作です。中でも日本画コレクションの多くを占めているのが、1974~90年の「第三次椿会」に参加した作家たちの作品です。
その一人が、資生堂を創業した福原家の人たちとも親交のあった山本丘人(きゅうじん、1900~86)です。「五月(さつき)」は東京・銀座の資生堂ギャラリーで32年に開かれた初個展で発表されました。
美しい新緑の中こいのぼりが風に揺れている、詩情あふれる爽やかな作品です。画面中央で緩やかに曲がって見えなくなる小川や屋根以外は草に覆われた家々は、いくつもの視点を組み合わせながら表現されており、景色をただ写したのではない、作家の意図が見てとれます。長らく個人蔵で、2008年に当館が収蔵するまで展示の機会がありませんでした。
高山辰雄(1912~2007)も第三次椿会のメンバーです。丘人とはひとまわり年が離れていますが、共に日本画家の松岡映丘(えいきゅう)に師事し、大変強い信頼関係にあったといいます。
高山は「人間とは何か」といった哲学的な問いを常に作品に反映させていました。「灯(ともしび)」も単純な風景ではなく、「人が最後に帰り着く場所」として「家の明かり」を描いたのでしょう。国籍や職業、性別などに関わらずどんな人も、安堵(あんど)感やノスタルジーを感じるのではないでしょうか。数年前に実施した資生堂社員による人気投票では、ダントツの1位に輝きました。
(聞き手・渡辺鮎美)
《資生堂アートハウス》 静岡県掛川市下俣751の1(問い合わせは0537・23・6122)。午前10時~午後4時半(入館は30分前まで)。(土)(日)(月)休み。無料。2点は7月23日まで展示。
学芸員 福島昌子 ふくしま・まさこ 1994年から現職。現代工芸を主に、資生堂に関連の深い小村雪岱(せったい)やフランスのビンテージ香水瓶の調査・研究、企画展などを担当する。 |