高度経済成長期の開発によって姿を消していく明治時代以降の近代建築を移築保存しようと、博物館明治村は1965年に開館しました。約100万平方メートルの敷地に、全国から移築された67件を屋外展示し、3万点を超える歴史資料も保有しています。
旧帝国ホテルは米国の建築家フランク・ロイド・ライトが平等院鳳凰堂に着想を得て設計しました。老朽化で67年に取り壊しが発表されると、反対の声も。そんな折に訪米した佐藤栄作首相(当時)が記者会見で米国人記者の質問に、「保存を検討している」と答えました。これがきっかけとなり、玄関部分が移築されることになりました。
外装には幾何学模様の彫刻が施された大谷石やくし目の入ったすだれれんが、透かしテラコッタが使われ、国内外の要人を迎え入れるのにふさわしい、重厚さと品格が漂います。
中に入ると、3階まで吹き抜けのメインロビーが広がり、内部に照明を組み込んだ「光の籠柱(かご・ばしら)」が4本。上部の格子窓からは光が差し込み、柱や窓枠など、いたるところが大谷石やテラコッタ、金ぱくで装飾されています。移築にあたって、テラコッタや風化しやすい大谷石の代わりに、一部新素材が用いられました
西郷従道邸に展示している「桜花蒔絵(まき・え)小椅子」は鹿鳴館で使用されていたもので、通常は実際に座ることが出来ます。19世紀半ばから英国で流行したバルーンバックチェアで、背もたれの輪郭が風船のように丸くなっています。漆と金の蒔絵で装飾を施した和洋折衷のデザインで、ひじ掛けがないのは、ドレスを着た女性も座りやすいような配慮だったと推測できます。
(聞き手・永井美帆)
《博物館明治村》 愛知県犬山市内山1(問い合わせは0568・67・0314)。午前9時半~午後5時(8月を除く10月まで。入館は30分前まで)。2千円。5月、6月は無休。
主任学芸員 中野裕子 なかの・ゆうこ 愛知県出身。大学卒業後、同館学芸員に。主に洋家具の調査・研究、展覧会の企画などを担当。明治時代の災害救護に関する文書調査なども。 |