ガソリン自動車の歴史が始まって約130年と言われています。当館では、19世紀後半から2010年代までに欧米日で作られた約550台の自動車を収蔵。150台を常設展示しています。主に製造から30年以上経った車をクラシックカーと呼んでいます。
中でも人気なのが仏のドラージュ社が1939年に手がけた「D8―120」。緩やかにカーブを描くボディーの造形に目を奪われます。注目したいのは、前輪を覆うフェンダー(泥よけ)。この膨らんだ形状では、製造時に型が引っかかってきれいに抜くことができないはずです。しかし、そこが当時の職人の技と情熱。鉄板をいくつものパーツに分けて成型し、それをつないで、つなぎ目を消すように磨き上げています。指先ひとつで変速する小さなレバーやロングドレスでも優雅に乗り降りできるよう、前側が開くドアなど、乗る人の所作まで考え抜かれています。
68年製造のスポーツカー「トヨタ 2000GT」は運転席から前が長く、後ろはすっきり。今はなかなかこんな比率の車は路上で見かけません。引き締まったアスリートのようです。
古い車を見ると、製造背景を知らずとも、「かっこいい」とお客様が立ち止まります。普段量産品に囲まれているから、手間をかけたものに直感的にひかれているのかもしれません。モノの価値や普遍性を考えるヒントがクラシックカーにはあると思います。
(聞き手・井上優子)
《トヨタ博物館》 愛知県長久手市横道41の100(TEL0561・63・5151)。午前9時半~午後5時(入館は30分前まで)。原則(月)休み。1000円。4月に、「クルマ文化資料室」が開設。約4千点を展示。
館長 布垣直昭 ぬのがき・なおあき トヨタ自動車でレクサスを含む同社全体のデザイン戦略やブランディングを担当した。2014年から同館館長。 |