読んでたのしい、当たってうれしい。

私のイチオシコレクション

竹久夢二 夢二郷土美術館

たどりついた理想の女性像

「立田姫」1931年 紙本着色 縦121.2×横97.5センチ
「立田姫」1931年 紙本着色 縦121.2×横97.5センチ
「立田姫」1931年 紙本着色 縦121.2×横97.5センチ 「秋のいこい」1920年 紙本着色 縦150.8×横163センチ

 岡山県出身の竹久夢二(1884~1934)は、「大正浪漫(ろまん)」を代表する画家。日本画をはじめ、作詩、デザインなど、多方面で活躍しました。

 当館は、夢二作品の里帰りを念じた実業家の松田基(もとい)が収集し、1966年に創設。肉筆画やスケッチなど約3千点以上を所蔵しています。

 開催中の企画展「夢二式美人」では、大きな目や手足、S字を描く叙情的な構図といった特徴的な美人画を紹介しています。夢二は、妻のたまきや恋人の彦乃、お葉らのイメージをもとに、理想の女性像を描き続けました。そこに自分の理解者であった母や姉への思慕や、社会的に弱い立場の人への共感など、「心の詩」を込めたのです。

 集大成と言えるのが「立田姫」です。31年に外遊に出る前の告別展に出品した作品で、「自分の生涯における総くくりの女、ミスニッポンだ」と語っています。立田姫は、秋の豊作の女神。右上には、唐の詩人・杜甫が農民の苦しさを詠んだ「歳晏行(さいあんこう)」の一節が一部変えて書かれています。立田姫は富士山の前に何かを守るように立ち、弱者と共にあるように描かれています。

 もう1点は、中期の代表作「秋のいこい」です。18年の米騒動のあとに描かれ、田舎から出てきた女性が途方に暮れている様を表しています。この絵の前にお葉がいる写真が残り、モデルが明確な珍しい作品です。

(聞き手・清水真穂実)


 《夢二郷土美術館》 岡山市中区浜2の1の32(TEL086・271・1000)。午前9時~午後5時。原則(月)((祝)(休)の場合は翌日)休み。800円。2点は12月16日まで展示。岡山県瀬戸内市に分館の夢二生家・少年山荘がある。

小嶋さん

館長代理・学芸員 小嶋ひろみ

 こじま・ひろみ 2015年、米国にあった夢二の油彩画「西海岸の裸婦」の収蔵に尽力した。小学生らへの教育普及活動も。創設者・松田基の孫。

(2018年11月6日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

私のイチオシコレクションの新着記事

  • 似鳥美術館 北海道で生まれた家具のニトリが開いた「小樽芸術村」は、20世紀初頭の建物群を利用して、美術品や工芸品を展示しています。

  • 太陽の森 ディマシオ美術館 フランスの幻想絵画画家として活躍しているジェラール・ディマシオ。彼が制作した縦9×横27㍍の巨大な作品が当館の目玉です。1人の作家がキャンバスに描いた油絵としては世界最大で、ギネス世界記録にも内定しています。

  • 宮川香山眞葛ミュージアム 陶芸家、初代宮川香山(1842~1916)が横浜に開いた真葛(まくず)窯は、輸出陶磁器を多く産出しました。逸品のひとつが「磁製緑釉蓮画花瓶(じせいりょくゆうはすがかびん)」です。

  • 小泉八雲記念館 小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)が『怪談』を出版して今年で120年。『怪談』は日本の伝説や昔話を、物語として再構築した「再話文学」。外国で生まれ育った八雲が創作できたのには妻の小泉セツの存在が欠かせません。

新着コラム