夏の納涼といえば怪談。日本画家の吉川観方(かんぽう)(1894~1979)は、風俗研究家でもあり、生涯をかけて幽霊や妖怪画を収集しました。地域の歴史と民俗を紹介する目的で1990年に開館した当館は、工芸や書跡も含む1万点以上の観方コレクションを所蔵しています。中には、伝・円山応挙の幽霊図や百怪図巻の名品も。両作を含め、今夏は江戸~昭和期の幽霊・妖怪画約50点を展示します。
注目の妖怪画は、江戸中期の絵師・伊藤若冲の「付喪神(つくもがみ)図」。百年を経た器物には魂が宿るとされ、付喪神と呼ばれました。上から、舞楽の装飾品・鳥兜(とりかぶと)や燭台(しょくだい)、琵琶や琴、茶道具と続きます。一説では、幽霊は夜中に現れるのに対し、妖怪は人をからかうため夕暮れ時に現れるのだとか。上部のぼかしは薄暗がりの表現です。天井裏から階下を見ているという見方もありますが、私には手前の茶筒が付喪神になる瞬間を見守っているようにも見えるのです。
江戸後期の無名に近い浮世絵師・遠浪斎(えんろうさい)重光が描いた「豆腐小僧」は、ほぼ無害な妖怪。豆腐などの行商人が増えた江戸期に誕生したとされます。団扇(うちわ)になるほど親しまれたみたいですね。滑稽さに愛あるまなざしを感じます。
血や死を仰々しく描くばかりではなく、日常の変化や気がかりなことをユーモアのある妖怪で表現し、江戸の人々は楽しんで受け入れていたようです。
(聞き手・星亜里紗)
《福岡市博物館》 福岡市早良区百道浜3の1の1(TEL092・845・5011)。午前9時半~午後5時半(入館は30分前まで)。(月)休み。会期中、開館時間と休館日に変更あり。入館料は企画展によって異なる。2点は、7月7日~8月26日の「幽霊・妖怪画の世界」展で公開。
学芸員 佐々木あきつ ささき・あきつ 京都大大学院修了。専門は近世日本美術史。宮崎、熊本の美術館を経て、昨年福岡市博物館に入職。 |