一見すると、いびつな陶磁器のかけら。でもこの小さな陶片には、歴史や文化をひもとく情報が詰まっています。
当館は、1966年の開館時に陶磁史研究を目的として全国でも珍しい「陶片室」を開設しました。東アジアやエジプトなどの古陶磁の陶片を1万点以上収蔵し、一部を展示しています。特に、欧州から東アジアへ至る航海路「海のシルクロード」を結ぶ国々の陶片が一望できるのが特徴。ぜひ大航海する気分でご覧いただきたいですね。
その中で私が注目しているのが、エジプトのフスタート遺跡から出土した中国の白磁碗(わん)と青磁鉢のかけらです。いずれも10世紀ごろの作品で、この白磁には、高台(こうだい)の中央にうっすらと「官」の文字が彫ってあります。これは宮廷用に作られたことを意味し、国外に流出するなどあり得ない製品。また青磁のかけらは、「秘色青磁」と同じ色みと質感をしています。秘色青磁は、皇帝が使用するために越州窯(えっしゅうよう)で作られた最高級品。これほどの器のかけらが、なぜエジプトの遺跡で発掘されたのか。
フスタートは、641年に建設された都市で、10世紀には商業の中心地として繁栄しました。可能性として、中国とエジプトが、海のシルクロードを通じてかなり親密な国交を築こうとしていた、あるいは築いていたのではないかとも考えられます。
たかが陶片、されど陶片。ここに壮大なロマンが広がります。
(聞き手・渡辺香)
《出光美術館》 東京都千代田区丸の内3の1の1。午前10時~午後5時((金)は7時まで。入館は30分前まで)。1000円。(祝)(休)を除く(月)と展示替え期間は休み。2点は常時展示中。問い合わせは03・5777・8600。
学芸員 徳留大輔 とくどめ・だいすけ 博士(比較社会文化)。主に中国陶磁、考古学を研究。陶片室を含む陶磁器関連の展覧会を担当。 |