「中華そば紅蘭(こう・らん)」の中華そば 「ふるさとの思い出の味を食べたい。一緒に行く?」。5年ほど前にコンサートで山口県を訪れたとき、山口出身のマネジャー・山本さんがそう言って、連れて行ってくれました。
愛と美と官能をテーマに、カップルイラストや短編小説を創作しているイラストレーター、平泉春奈さん。今回ご紹介くださった「最高のパスタ」とは? ご家族との素敵なエピソードや仕事に対する思いなど、11月9日付け朝日新聞紙面「グッとグルメ」欄に収めきれなかったお話しをお届けします。(聞き手・田中沙織)
――今回ご紹介いただくお店が、神奈川県座間市の「Green Table」。アンチョビソースを使ったパスタということです。どんなお料理ですか?
一言で言うなら、野菜のおいしさを最大限に活かした究極のパスタです。……ちょっと待ってください。言い過ぎましたかね(笑)。
――候補を教えていただいたメールに、「最高のパスタ」と書かれていましたよね。
もう最高です。パスタだけというレベルではなくてお店の全ての料理が最高すぎて、本当は「1つに絞るのって難しいな」って思ったくらいです。イタリアンなので、パスタがとにかく、わかりやすいくらいにおいしい。つまり、美味しさを伝えやすいんです。そして、その時の旬の野菜をなんでも美味しく仕上げられている。その点において、1番わかりやすいのがパスタだったので、今回これを選びました。さらにアンチョビも絶妙なんです。アンチョビって大人の味というか……。ちょっと複雑じゃないですか。
――量の調節など難しいですよね。
そうですよね。濃すぎちゃうとアンチョビが強すぎる。お店のアンチョビの量は絶妙な加減で、野菜の味を殺さずパスタの絡み方も絶妙。バランスが素晴らしいんです。味付けはアンチョビメインで、個人的な感想としてはシンプルな味付けです。
――日ごとに季節のお野菜が異なるようですが、いつのシーズンが1番好きですか? 驚いたメニューとか?
カブとかダイコンって、パスタに入れる発想はなかなか浮かばないと思うんです。そんなびっくりする発想をパスタにぶつけてくるのが店主の千葉さんです。食べるとすっごく美味しい。 固定概念を覆されることがあります。
ダイコン、めっちゃ美味しいです。ダイコン自体も味が濃くて美味しいんですけれど、やはりオイルとアンチョビがいい感じで染み込んでいて。それがもう、びっくりするぐらい口の中でとろけるというか。大根ってこういう食べ方もありなんだって。大根=和のイメージがあったので。ちょうど秋冬限定の美味しさかもしれないですね。
――このお店に行ったきっかけは何ですか?
有機野菜など自然派系のお店は、同じような食材を扱ったお店の人が紹介してくれるような流れがあって、それで知りました。このお店は有機野菜をメインにこだわっているお店です。元々、野菜へのこだわりが強い他のお店によく通っていて、そこで紹介してもらいました。「このお店、すごいいいから行ってみたら?」って口コミで。気になって行ってみると、すごく好きな雰囲気! 料理だけではなくて、店主の雰囲気もよく居心地がよかったんです。「特別な日に行きたいな」って思える存在になりました。
――どんな時に行きたくなりますか?
誕生日とかかな。夫の誕生日に行ったり、私の誕生日でも行きました。 実家の親を呼ぶこともあります。私の誕生日と次女の誕生日が2日違いなんですが、2人のダブルバースデーをサプライズで開いてくれました。おそらく夫が準備してくれたのかな。
結構ベタなんですが、このお店はスイーツもこだわって作っているので、綺麗なスイーツの盛り合わせに、「ハッピーバースデー」と書いてあって……、「すごくいい!」って思っちゃいました。好きな場所で祝ってもらえたというのは、やはり嬉しかったです。
それに、私は普段サプライズをする側で、される側ではないんです。ちょっと久しぶりだったので嬉しかったですね。学生時代はよくあるじゃないですか。すごく遠い、昔の話だったから……。それなりの歳になって、子供にばかり祝ってあげている側だったのが……。ちょっと照れるけれど、嬉しかったです。
――初めて訪ねたのはいつ頃ですか?
もう結構前ですね……。何年前だろう。5,6年前くらいですかね。
――初めて訪ねた時の印象はどうでしたか?
まずインテリアが可愛い! アメリカンビンテージのようで。おそらく、店主の千葉さんがこだわって買ったものを並べているようで、ちょっと海外に来たような空気感があります。椅子とかも自分で塗られていたりして手作り感があって。ちょっとレトロで可愛いくて、「わあっ」っと驚いて、料理を食べて更に「わーっ」っと盛り上がる! 非日常感も楽しめるような空間です。
――このメニューの推しポイントはどこですか?
やっぱり、「旬の野菜を最高に美味しく食べられるパスタ」というところです。「この野菜が好き」とかではなくて、その季節ごとに、「この季節だからこそ、この野菜がおいしい」みたいなところがあるんです。例えば、夏はトマトがおいしいからこそ、夏の時期にしっかりトマトを食べる……とか。「この時期にこの野菜をとるから体にいい」みたいなことをご存じのうえで料理に使っているなというのが伝わってきます。だから安心して食べられるんです。そして、もともとの野菜の味がものすごく濃いんです。
――野菜の味が濃い?
味が濃いんです。緑の葉っぱ系は苦味もかなりしっかりあるし、苦みと甘みのバランスがよくて、味も濃くて、美味しいんですよ。 だから、下手に味付けを濃くしないで食べた方が、野菜自体をすごく美味しく食べられて、パスタも生麺のような感じで絡むんです。歯ごたえも、シャキシャキとモチモチが口の中でコラボレーションしている感じです。とても贅沢な一品だなって思います。お肉の方が贅沢感はあるイメージだけれど、本来、野菜ってすごく贅沢なものだと思っています。きちんと作った野菜っていうのはすごく価値が高いんです。「なんだ、野菜だけか」って思いがちだけど、「その野菜こそが、もうすごいんだよ」って伝わってくる。このお店の料理は、どれも野菜を楽しむことができます。
――ご夫婦の仲がとても良いとお話しされていましたが、2人のデートで行かれることも?
ありますあります! 今回のコラムご紹介のために下見で行った時も、二人でデート的な雰囲気で行きました。「やっぱりいいよね」「美味しいよね」「どれも間違いないよね」……みたいな(笑)。「どうする?」「どれにする?」「3つ候補あげなきゃいけないけど、3つに絞れないよね?」って感じで、2人でああでもないこうでもないって喋り合いました。
――昨年、別の取材をさせていただいたとき、「夫は私のことをとても好きなんだ」とお話しされていたような……。
そんな恥ずかしいこと言いましたっけ(笑)。間違いなくそうなんですけどね。顔なじみの店に行くことが多いので、二人で食事をするときも楽しく喋るけれど、そんなにラブラブ感は出さないですよ。さすがに! でも、 結構なんでも話せる仲なので、キャッキャキャッキャ喋っていると、結局ラブラブに見られているのかな。
――カップルイラストの作品に食べ物を描かれることがありますよね。描くときに意識することはありますか?
SNSに投稿している作品には少ないのですが、その他のお仕事ではちょこちょこと食べ物を描いています。「カフェで2人でケーキを食べているシーン」とか。あ、明日ちょうど新刊が発売されるんですよ!(取材日:2023年9月27日)
――そうですよね!
今回の新刊は官能シーンがかなり多いんですが、日常のワンシーンを切り取っているので、ご飯が出てきたりしています。はじめはご飯をメインで書こうと思ったら、担当編集者さんに、「ご飯のワンカットよりも二人の距離感を描く方が、春奈さんの良さが出る」と言われました。ネットで調べたりして唐揚げと煮物を描いたんですが、超日常で……。おしゃれな感じではなくて(笑)。「家飲みに手作りのご飯をちょっと持ってくる……」というシーンがあって、久しぶりに食べ物を描きました。
もともと食べ物を描くのは好きで、特にスイーツが好きです。ショートケーキとか! バレンタインの時期にはチョコレートケーキを描いたり! 可愛くて甘くて美味しいものはすごく好きです。
――たまに、キッチンを背景にカップルを描かれることもありますよね?
そうそう。そういうときにショートケーキが置いてあるだけでやっぱり映えるというか。生クリームだと、ちょっとエロティックな雰囲気を連想させたり……。……そういえば、パスタは描かないな。お酒もよく描きます。ワインやビールは、今まで絵で何度も描きました。
――食べ物を描くのはテンションが上がりますか?
そうですね。食べることが好きなので。いかに美味しそうに描けるか、自分の中の戦いのようなものです。 元々、写実的な絵を描くことが好きで、食べ物を写実的に描くことにはまっていた時期がありました。SNSでは特に大きな反響がないため描く機会は少ないのですが、ふとしたシーンで妙にリアルに描けると、ファンにちょっと喜ばれたりします。「妙にリアルでいい」「ケーキが可愛い」「美味しそう」とか言われると、ちょっと「やった!」って思いますね。
細かいところまで見てくれてうれしいし、私も頑張って描いていてよかったって思います。
――描く仕事をするうえで、食と体の健康というのは意識されていますか?
とても意識しています。とはいえ、私は料理をしないんです。3食すべて夫が作ってくれています。健康意識が高い人なので、なるべく添加物を使わないとか、 味付けもちゃんと出汁を取ってから……とか。お味噌汁も、昆布でだしをとったものを使って作ってくれます。そういうものが、私の血となり肉となっているなと感じます。私や子どもたちの体をたくさん気を使ってくれるんです。すごくありがたい。
私の仕事って、没頭していると時間を忘れちゃうので、食べる時間はきちんとしないといけないんです。ずっと描き続けて気づいたら夜で……とかあると思うんですけど、我が家の場合は夫が常に家にいるので、そういうことが絶対無いんです。「はい。ご飯の時間だよ!」って言ってくれる。たまに、「もうちょっと描きたいのに……」とか思うこともあるけれど、そうやってきちんとオンオフを分けてくれるからこそ健康なんだろうなって思うと、本当にありがたい。昼は昼の時間に、夜はこの時間に食べるっていうのがきちんと決まっています。
ご飯を食べる時間で私の仕事のサイクルは決まるのかもしれません。食卓に座ってご飯を食べて、みんなでおしゃべりする時間。結構かっちり決まっているんです。
――「愛のこもったタイムキーパー」みたいですね。
そういう感じですね。うまいうまい(笑)。そんな感じです。
絵の仕事を始める前は、夫が今のように家で仕事をするスタイルではなかったので、私は家で違う仕事をしながらほとんどの家事をやっていました。普通にご飯作って、 掃除して、洗濯して……、全部1人でやっていたんですが、この仕事を始めたら絵を描くことがメインになってバトンタッチしてもらいました。
すると、夫の方が家事が向いてるなって気付いたんです。夫は元々料理が好きだし、 こっちの方がいいじゃんって。
――改めてこちらのお店、そしてパスタはどういう存在ですか?
心と体を健康にしてくれるものです。野菜だけではなくて、オイルや調味料など全ての素材をこだわっているので、 確実に体にいいのはわかっているんです。
食事ってやっぱり、誰かと一緒に「おいしいね」って食べるものだと思っています。ここは楽しく食べられる場所っていうのもあって、「おいしいね」っていうのが、1つのコミュニケーションというか、楽しいんです。心の健康が補えるような。
毎日行けるわけではないから、たまに特別な時に行って、「あー、やっぱり美味しいよね」っていう、このセットが楽しいんです。
▼Aプロ企画/「田村セツコ×平泉春奈 トークショー」リアルイベントを開催