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【SP】博士でアイドルグループをつくろう  京都大学研究員・武田紘樹さん

 

 PhD48? 博士アイドル化計画? 博士×アイドル……?? よくわからないけど気になる「PhD48」。10月8日(日)に東京・秋葉原で「最終オーディション」を行ったPhD48の名付け親で京都大学研究員・武田紘樹さんと、文系卒の記者が語ってみました。(聞き手・島貫柚子)

※武田さんは10月12日(木)朝日新聞夕刊「グッとグルメ」に登場しました。

 

 

――Ph.Dとは博士のことですよね。「PhD48」とは、AKBやSKE、NMBなどアイドルグループの「48」をかけていますが、以前からなにか構想があったんでしょうか。

 

 いや、発端はtwitter(現X)ですね。「博士のアイドルグループでも作って稼ごうかな」みたいな。それが反響を呼んだんで、こんなに反響があるなら、なんかやってみようかなって。目的意識から始める人って結構多いじゃないですか。僕はそれだとうまくいかないことが多いと思っていて。別に、「なんか面白い」「よくわかんないけど面白そう」っていうものがあったら、後から目的をつければ大義名分もできる。人が集まるものっていうのは、言葉じゃ言えない何かがあると思うんです。

 

 

ーーそもそも、PhD48とはなんでしょうか。

 

 公式サイトから引用します。ご覧ください。

 

 

 「博士アイドル化計画」はメンバー全員が博士号を有する、または博士学生の任期付きアイドルグループの設立を目指すオーディション企画です。

 「メンバー全員博士号持ちのアイドルグループPhD48を作ろう」とTwitter上でこぼした発言をきっかけに開始した活動ですが、グループ名が不正競争防止法の混同惹起行為に当たる可能性があるとメンバー応募者の法学の専門家から指摘されたため、オーディション名で活動します。

 研究者達の多彩な個性を発信することで、社会のより多様な層にまで学術研究を身近に感じてもらうことを目的とします。

 社会の大部分の人達は必ずしも研究自体に強い関心を持っているとは限りません。研究者達の存在そのものの魅力を広く届けることで「この国にこんな面白い研究者達がいて、実はその人達がこんな面白い研究をしてるらしい」と社会の人々が学術研究を知るきっかけを作れたら幸いです。

 また、この活動に伴う試行錯誤が社会と学術をゆるく結ぶ新しいアウトリーチ活動の形を探る糸口になることを願っています。(公式HPから)

  X:@PhD_idols

 Youtube:@phdidolproject

 

 

 

――ありがとうございます。今はどういう活動をしている段階でしょうか。

 

 10月8日に秋葉原で、「博士アイドル化計画 最終オーディション」として、3分間で自分の研究分野などをプレゼンしてもらうイベントを催しました。最初100人以内ぐらいの応募があったんですけど、二次審査を通過した9人で行いました。

 

――48人にするわけではないんですね。

 

 48人にすると……。やってみましたが、リソースもないので面倒見切れなくて。オーディションの最終審査が初ライブ兼解散ライブみたいな感じですね。アイドルとか、オーディションをドキュメンタリー的に追うのも多いですし。

 

――私、武田さんをPhD48の方だって認識したのが割と遅くてですね。そういう方がいるっていうのは知ってたんですが、武田さんとは紐づけできていなくて。「女性が理系に進もうとすると、親御さんの意見などに左右されちゃう」みたいな、そういうツイートが少し前にバズってましたよね。

 

 あれですよね。なんで理系に女性がいないかの理由を説明したみたいな。

 

――そうです、そうです。

 

 京大の女子高生向けの理系イベントに誘われることがあります。ほんとは、女性がやるべきなんですけど、物理学科はまじで女性がいなさすぎて。

 

――男女比はどんな感じでしょう。割合じゃ表せないですかね。

 

 僕の代の東大学部の理物は0でした。100人いて。

 

――それは、すごいですね。

 

 やばいっす。まあ、どう考えても不健全じゃないですか。 女子高生向けの理系イベントに呼ばれるようになって、研究の話するのはできるけど、呼ばれるからには理由を把握しといた方がいいなと。そういうイベントって、終わった後に相談会みたいなのがあるんで、彼女たちが何を気にしてるのかなっていうのを知りたかったから、ツイッターで募ったっていう感じですね。

 

 

――私が文系なのであれなんですけど、ツイートを拝見して、理系女性って少ないなあと改めて思いました。

 

 文系に進もうって、なんか具体的になったのはいつぐらいなんですか。

 

――高1、高2ですかね。文理を選択してかなきゃいけないフェーズに入って、得意科目を考えると理系は大してできなくて。となると受験はきついだろうな、みたいな。逃げみたいな部分が半分と、世界史が好きだったので文系コースを選びました。人数的に理系がマイノリティだったっていうのも理由でしたね。

 

 そうですよね。多分、文理どっちでもいいやっていう感覚の人もある程度いると思うんです。そこでこの世界、文系か理系かって示された時に、「理系に女の人いなさすぎだろ」ってなったら、そっちに行くのは難しいですよね。

 

――そうなんです。すごく数学が好きとかでない限り、理系は選びづらくて。

 

 男女問わず、多分、この段階で明確な意思がある人ってかなり少ないはずなのに。なんか比が偏ってたら必然的に多い方でいいやってなっちゃうっていうのも、まあ当然ある。あとやっぱり親とか、社会的な雰囲気とか色々あると思うんですけど。

 

――もっと勉強ができたら理系で学んでみたかったな、みたいな気持ちはありますね。

 

 やたら理系のハードルが上がっている気はしますけどね。別にそんな数学とかできなくたって楽しめますし。当然できるに越したことはないんですけど。受験はあるけど、好きならそんな苦じゃないものでもあると思うんで。女性は特に、実態がわからないから敬遠しちゃうのかもしれないですね。同性でちょっと年上の先輩とかがいて、その人たちから、「そんな気にすることないよ」っていう情報が入ってきたら、「私もやってみよう」ってなるのかもしれないけど。

 

――そうですね。ロールモデルみたいなものがいないので。

 

 めっちゃいろんな要因があるんで、もうどうしようって感じですね。

 

――京大では何を研究しているんでしょうか。

 

 重力波ってやつですね。広く言うと、一般相対性理論。いまは重力の研究をしています。一般相対性理論のなかには、重力波っていう現象があるんです。光も電磁気学っていう分野の中の現象の1つで、地球にやってくる光を見ると、星の明るさとか温度とか性質がわかる。基本、天文学ではそういうことをやります。重力波も星とか宇宙の現象から放射される波の一種で、光じゃわからない情報を引き出せます。たとえば、ブラックホール同士が合体するみたいなことが起こると、光は出さないんですけど重力波が出るんですね。重力波の形を見れば、ブラックホールがどれぐらいの重さだったか、何億光年前の星だったかっていう情報を引き出せる。それが天文学では嬉しいところですね。重力波で時空が歪むんですけど、その歪みを使って、天体現象とか、宇宙の起源を調べるっていうのが主な研究ですね。

 

――ありがとうございます。大学ぐらいに入って物理が楽しいと思えたということでしたが、具体的になにかあったんでしょうか。

 

 結構、こうやって話するのも好きだし、ディスカッションするのが好きなんですよね。結構やっぱり論理的な話をするのが。それは別に物理に限らず、くだらない話でも。ちょっとした悪ふざけとか、言葉でいうのがかなり好きなので。ディスカッションできるので割と好きってのは、まず学問が楽しいことの1つですね。

 高校の頃から数学とかは結構好きだったんですけど、高校入って、高校の範囲を超えちゃダメなとこあるじゃないですか。「これは、こういうもんだと覚えといてください」みたいな。それがめっちゃ嫌いで。なんでなんだろうって考えちゃうタイプなんですよ。高校の教科書で調べてても、当然そんなの書いてない。こだわりが強い症状があって、その文章を何回も見ちゃうんですよ。納得できるまで考えたい。受験勉強とかそっちのけで、「質量」ってなんだろうみたいな。ずっと考えてるけど、高校の範囲だと絶対答えが出なくて。それで受験勉強に全然集中できないみたいなのがあって、結構苦しんでたんです。

 でも、いざ大学に行くと、めっちゃ厳密に書いてあったんですよね。わかんないことはわかんないし、知りたかったら、こっちの分野を勉強してくださいみたいな。ごまかしがない感じが僕の性格に合っていて、物理とか数学が楽しいなと思えましたね。

 

――14歳向けの書籍を出版なさってますよね。私は文系で、「やさしい物理」みたいな本を読むのが結構好きでして。

 

 そうですね。14歳向けって書けば、そういう方にも手に取ってもらえるかなっていう。内容は手加減せずに、でも結構簡単に書いたつもりなんですけど、それでもやっぱり難しいとか。本を書いた動機ともちょっと関係してるんですけど、僕こういう分野に興味を持ったのが割と遅いんです。

 

――そうなんですね。それは、意外ですね。

 

 なんだろう、研究してる人たちって幼稚園小学校ぐらいの頃から、お母さんお父さんに科学系のところに連れてかれてとか、いろんなもの見てこの分野に興味を持つ人が多いんです。ただ、うちはそんな教育熱心ではなかったというか、勝手に好きなことやってていいよみたいな。ずっとサッカーとかしてましたね。高校の時も、なんとなく数学好きだなぐらいの感覚で物理をやることになって。本当に物理が楽しいなって思えたのは大学に入ってから。

 研究の世界があるって知っていたらもっと早くやっていたでしょうけど、ちっちゃい頃はいきなり研究の話とかされても、なかなか興味を示すのが難しい。大学の広報みたいなアウトリーチな活動って、本当に興味ある人じゃないと参加しづらいイベントが多いんです。

 昔から、「よくわかんないけど、面白い人がいる」とか人の魅力をきっかけにして、その人が実は研究をしているって知る方が、学術研究にとっつきやすいだろうなと思っていました。ただ、そういう活動をしたいって言っても、多分人は集まらないんですよ。

 PhD48とか、よくわかんないけど人が興味を示すケージみたいなものがあれば、理由は後から付け加えて活動できるなと考えました。色々やってみて学びましたけど、結構大変ですね。

 

 


武田紘樹(たけだ・ひろき)

 京都大学大学院理学研究科 物理学・宇宙物理学専攻。日本学術振興会特別研究員PD。近著に「広大すぎる宇宙の謎を解き明かす『14歳からの宇宙物理学』」。(KADOKAWA)

「広大すぎる宇宙の謎を解き明かす『14歳からの宇宙物理学』」

Youtubeチャンネル:「たけださんの4コマ宇宙」。

X: @tomatoha831

 

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