「アフター・ヤン」(2021年) 「テクノ」と呼ばれる人型ロボットのヤン、中国系の養女・ミカ、養父母が暮らす近未来が舞台です。
エマ監督の作品は、バイセクシュアルやレズビアン、クィアのキャラクターがごく普通に存在していて、LGBTQを主題にしていないところがとても好きです。「Bottoms」(2023年)が大好きなのですが、今日は海外でDVD化されている前作について話しますね。
大学卒業が近いバイセクシュアルの主人公ダニエルが、ある日「シヴァ」に参加します。シヴァとは、ユダヤ教の葬儀後7日間の喪のことで、親戚や友達や友達の親戚が集まるような狭いコミュニティーのことです。ダニエルは、「ベビーシッターとして働いている」とウソをつきながらパパ活でお金を稼ぐような感覚の持ち主ですが、ひとたびシヴァに来てしまうと、家の中で赤ちゃんのような扱いをされてしまう。「彼氏できた?」「最近食べてないの? 痩せたんじゃない?」などと親戚の“尋問”が始まります。自分を守ろうにも、どんどんどんどんのみ込まれていく。緊張しやすい私に響いたのがこれです。存在しているだけなのに壁が自分に近づいてくるような……。
そんな圧迫感に感情移入してしまって、あまり気軽にリピートできないのですが、あくまでコメディーなのです。初見は友達と2人で「キャー!」と言いながら、2回目は1人で見ました。シヴァには元カノやパパ活のパパ(実は既婚者)もやってきて、「やばい」とウソを重ねていくダニエル。世界をコントロールしようとして空回りしまくっている感じに、「あー、よくやるな私」と共感しましたが、結末は温かなものでした。描いていて楽しかったです。
(聞き手・島貫柚子)
監督・脚本=エマ・セリグマン
製作国=米国 出演=レイチェル・セノット、モリー・ゴードン、ディアナ・アグロンほか
あらい・すみこ 「気になってる人が男じゃなかった」(KADOKAWA)が「次にくるマンガ大賞2023」Webマンガ部門1位、「このマンガがすごい!2024」(宝島社)オンナ編2位に選出。2巻が2月27日発売予定。X(旧ツイッター)@agu_knzm
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