「マスク」(1994年) 何をやってもうまくいかない主人公・スタンリーがマスクをつけると、ハイテンションな超人に大変身し、アパートから外出するために大暴れする。
テーマ曲が好きです。エドゥアルド・アルテミエフという人が手掛けた、バッハのオルガンコラールが冒頭クレジットに流れ、水草が揺れる場面につながる。重厚な感じがします。タルコフスキーの映画は絵として美しいんですが、眠くなるので、冒頭から挫折する人はいるかもしれません。
ジャンルはファーストコンタクトもの。SF的アクションはありません。知性があるらしい惑星ソラリスについて科学者が探るけれど、結局何も分からない。宇宙よりも、人知の及ばないものと遭遇した人間を描き出す。非力さ、無力感、諦めのようなものが漂っていて好きだし、結構リアルさを感じます。人類が宇宙に出て行って他の生命体と出会ったとしたら、「戦って勝ちました」とか、「逃げ延びて安全に暮らしました」とか、そんな起承転結はないかもしれませんからね。
ブリューゲルの絵の中に入っていくような感覚になったり、ソラリスの作りだした故郷の家が出てきたり、言葉よりもイメージで伝えてくるので抽象的な印象を受けます。言葉って記号なので、置き換えると行間がこぼれ落ちてしまうんですよね。僕は、一回ではよく分からないようなものにひかれます。だから繰り返し見て解釈します。美術作品もそういうものが好きですね。
タルコフスキー鑑賞後に感じる「何だか分からないけど、すごいものを見た」。そんな作品を作りたいです。挿絵は、ソラリスによる「人体の蘇生」をイメージして描きました。装飾は細胞、膜、菌がモチーフ。オレンジの岩絵の具は血、肉を表しています。
(聞き手・島貫柚子)
監督=アンドレイ・タルコフスキー
原作=スタニスワフ・レム 製作国=ソ連 音楽=エドゥアルド・アルテミエフ 出演=ドナタス・バニオニスほか むらおか・きみお
1966年、京都府生まれ。東京芸大大学院修了。作品集「秘儀荘」(赤々舎)を刊行。インスタグラムは@muraoka.kimio |