つめをぬるひとさん(爪作家)
「アフター・ヤン」(2021年) 「テクノ」と呼ばれる人型ロボットのヤン、中国系の養女・ミカ、養父母が暮らす近未来が舞台です。
「アフター・ヤン」(2021年) 「テクノ」と呼ばれる人型ロボットのヤン、中国系の養女・ミカ、養父母が暮らす近未来が舞台です。
映画に限らず、よくできているものが昔から好きです。ロボットアニメやホラー小説、VFX。日常をふっと忘れる。作品に没頭しているとそんな時間がありますよね。
タイムスリップしながら連続爆弾魔を追いかける時空警察官(イーサン・ホーク)。そして、自分の人生を壊した男を探す青年ジョン。この2人を中心に映画が動きます。細かな描写も凝っていて、SFだけど現実味がありますね。タイムスリップの衝撃で車の窓ガラスが粉々になったり、キャラクターの呼吸が乱れたり、記憶障害になっちゃったり。ジョンが「私が“少女”の頃……」と告白する場面は引き込まれました。ある時までは、ジョンはジェーンという女性だったんです。
フィルム・ノワールのような世界観。ぐるぐる回る輪廻(りんね)の時間をクラシックな風合いで描きました。背景は僕が映画から感じた色、モチーフは「ルビンの壺」。心理学で昔から使われる反転図形で、ネガとポジ、どちらに焦点を当てるかによって人にも壺にも見えるんです。女性と男性の顔を持つジョンを象徴する気がしました。
始まりも終わりもないこの映画を物語る、「鶏が先か、卵が先か?」というセリフも印象深いですね。映画のメッセージは「視野を広く持て」ということだと感じました。僕も「電線って、すごく邪魔だな」と眺めるうちに複雑な絡まりに興味を抱いて、街をトリミングした絵を描くようになりました。何げないモチーフを探して、アンテナを張りながら街を歩き回っています。
(聞き手・島貫柚子)
監督=マイケル・スピエリッグ、ピーター・スピエリッグ
出演=イーサン・ホーク、サラ・スヌーク、ノア・テイラーほか
たざき・ふゆき
1971年東京都生まれ。東京芸術大学大学院修了。横浜美術大学准教授。「視覚デザイン」などを教える。 |