つめをぬるひとさん(爪作家)
「アフター・ヤン」(2021年) 「テクノ」と呼ばれる人型ロボットのヤン、中国系の養女・ミカ、養父母が暮らす近未来が舞台です。
「アフター・ヤン」(2021年) 「テクノ」と呼ばれる人型ロボットのヤン、中国系の養女・ミカ、養父母が暮らす近未来が舞台です。
日本で公開された翌年の1992年に目にしたポスターには、かつて夢で見たような世界が広がっていました。稲妻が走ったような衝撃を覚えてすぐに映画館に足を運びました。
18世紀のアルメニアの吟遊詩人、サヤト・ノヴァの人生を描いたものと言われますが、終始詩的でセリフもまばらで、ストーリー性は無いと思っています。豪華な調度品、計算されつくしたシンメトリーな構図、登場人物が歌舞伎や能の「型」のような動きで酔いしれさせ、映像美に心が熱くなりながらも、心地よい睡魔が押し寄せます。
僕は視覚から受けた印象を昇華させて作品にするので、絵画作品のようなこの映画からは強烈な刺激をうけ、その後の制作に影響しました。
劇中の象徴的なアイテムであるザクロや短剣、魚はモチーフを崩さずに描き、対をなすチョウチョは、修道院の天井から舞い降りる天使をイメージしたものです。ザクロからにじみ出る血を思わせるような果汁が広がり、アルメニアの地図を描いています。ノアの方舟がたどり着いた場所ではとも伝わるアルメニア国境近くのアララト山も描きました。画面右にはアルメニアの博物館で目にした旧約聖書に描かれた数字をモチーフにしたもの。思い入れが強すぎて筆が止められず、ふんだんに盛り込みました。
近隣諸国と紛争が絶えず、災禍を免れた書物がこの国の文化の礎になっています。書物を虫干しする場面は、破壊されずに残った書物が担う役割を象徴していると思うんです。
(聞き手・鈴木麻純)
監督・原案=セルゲイ・パラジャーノフ
製作国=ソ連
出 演=ソフィコ・チアウレリほか たが・しん 1946年生まれ、北海道出身。
初期の銅版画作品が「江戸川乱歩文庫」全30巻(春陽堂書店)の表紙を飾るほか、画集や個展などの実績多数。 |