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私の描くグッとムービー

福井利佐さん(切り絵アーティスト)
「ライアン・ラーキン 路上に咲いたアニメーション」(2008年)

才能のみずみずしさと危うさ実感

 福井利佐さん(切り絵アーティスト)「ライアン・ラーキン 路上に咲いたアニメーション」(2008年)

 

 カナダの知る人ぞ知るアニメ作家、ライアン・ラーキンにまつわる1965年~2008年の7作品のオムニバス。ラーキンの代表作「ウォーキング」など短編4作品のほか、遺作の「スペア・チェンジ 小銭を」、ラーキンを尊敬し、彼の晩年を描いたクリス・ランドレスのCGアニメ「ライアン」などです。

 「ウォーキング」で20代半ばにしてアカデミー賞にノミネートされたラーキンは、コカインに手を出してホームレスになります。「ライアン」は、ランドレスに再起を促されながらも、結局路上生活に戻ってしまうドキュメンタリーです。これを見て彼の転落を知り、驚きました。すばらしい作品を作っても、その感覚を保ち続けることは難しい。才能って、身につくものではなく、移ろいやすく危ういものだと感じました。その後、ラーキンは路上生活をもとに「スペア・チェンジ」を制作しますが、途中の07年に63歳で亡くなります。

 大学生の時に「ウォーキング」を見ました。歩くことだけを水彩画で描いているのにすごくドラマチックで、生き生きした動きと色彩に衝撃を受けました。

 この切り絵は「ウォーキング」のオマージュです。歩いている人の姿に、ストリートの情景を見ているラーキンの顔を組み合わせました。シンプルなのに画面全体がみずみずしい――。そんな彼の作品のように、私も切り絵の線そのものに魂が宿る、そういう作家でいたいと思っています。

聞き手・石井久美子

 

  監督=クリス・ランドレス、ライアン・ラーキン、ローレンス・グリーン、ローリー・ゴードン
   製作=カナダ
ふくい・りさ
 1975年生まれ。国内外の個展やグループ展、挿絵などを中心に活動。来秋のドイツでの個展に向けて構想中。
(2015年11月27日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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