森万里子作(東京都港区) 滑らかな曲線が美しい弧を描いて上昇しては、緩やかに下りてくる。
四方に連山を眺めながら、山道を行く。標高420メートルの「造船所」を目指して。徳島県上勝町傍示の里山に置かれた、全長約20メートルの木造船。2007年に県内で行われた国民文化祭で、現代美術家の日比野克彦さん(61)と有志の地域住民らが制作したアート作品だ。
上勝町では当時5作家を招き、地域の素材を使った作品を依頼。日比野さんが選んだ傍示地区は「町づくりに特に積極的。皆で作品を作る日比野さんの手法に合っていた」と、企画を担当した町職員の横田正和さん(38)は話す。
なぜ山に船なのか。日比野さんは「海がないゆえの憧れや想像力が湧きやすい」と言う。「島国の日本にはその昔、全ての物が船でやってきた。何かがやって来る期待、どこかに行きたいという思い、人間のスイッチを押してくれるのが船なんです」
参加者に船の専門家はいない。親睦会で囲んだ舟盛りの器を眺めて作り方を模索した。山から杉を間伐することから始め、7カ月かけ制作。作業後には日比野さんがギターを爪弾き、皆で酒を酌み交わした。その度に構想は膨らみ、船の大きさも予定の倍ほどに。
休耕田を設置場所に提供した山下和美さん(64)は「人と人、心と心。人間ってそれだけで一つにまとまるんやね」。これまでに結婚式や、船底での宴会も開かれるなど、地域の拠点となっている。
(中村さやか、写真も)
《アクセス》徳島駅から車で約1時間。
上勝町 徳島県の中東部に位置し、千メートル級の山々に囲まれた、人口約1500人の町。料理に添えるつまものを販売する「葉っぱビジネス」で知られる。 |
特産の阿波晩茶の直売農家、山田産業(問い合わせは0885・45・0453)までは作品から徒歩7分。乳酸発酵させる独自の製法は、国の「記録作成等の措置を講ずべき無形の民俗文化財」に指定される。
ごみゼロ宣言をし、45分別に取り組む上勝町。作品から車で7分、民家の廃材を利用した建物が特徴的なビール醸造所ライズアンドウィン ブルーイングカンパニー(写真、問い合わせは45・0688)では造り立てのビールとバーベキューが味わえる。(月)(火)休み。