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アートリップ

廻光(かいこう)-龍骨(りゅうこつ)
 蔡國強 作(福島県いわき市)

蘇った北洋船 友情の証

今から100年以上前に造られ、魚礁として沈められた後、砂浜に打ち上げられた船を再利用。左は志賀さん=伊ケ崎忍撮影
今から100年以上前に造られ、魚礁として沈められた後、砂浜に打ち上げられた船を再利用。左は志賀さん=伊ケ崎忍撮影

 里山を「竜」が駆け上る。山肌にくねくねと延びるのは、長さ166メートルの回廊だ。辿っていくと、終着点の高台に、木造の骨組みがむき出しになった全長13・5メートルの廃船が現れた。福島県いわき市の野外美術館「いわき回廊美術館」にある立体作品「廻光―龍骨」だ。

 「龍骨」は、中国福建省生まれの現代美術家・蔡國強さん(61)と、市内在住の実業家・志賀忠重さん(69)や地元民との友情から生まれた。二人の出会いは1988年。当時日本で活動していた蔡さんが市内のギャラリーで開いた個展で、志賀さんが絵を購入したことから交流が始まった。93年、市立美術館での個展に出展する作品制作のため同市を訪れた蔡さんは、砂浜に埋もれた北洋船を見つけた。「この船を作品に使いたい」と志賀さんに相談。地元有志らが掘り出し、解体して運び、再び組み上げた。冬の海辺で約3カ月、たき火や豚汁で暖を取りながら作業は続いた。蔡さんの妻が手料理を振る舞う日もあった。

 個展終了後、「龍骨」は市内の公園に移され、6年前に現在の地へ。東日本大震災と原発事故後、誇れる故郷を取り戻そうと志賀さんが立ち上げた桜の植樹計画に、蔡さんが賛同。その一環で回廊美術館も誕生した。「友情の証し」である「龍骨」も設置された。里山の桜は現在約4千本。春には花が咲き、人々の心を和ませる。

(笹木菜々子)

 いわき回廊美術館

 2013年開館。蔡さんが資金を提供してデザインを考案。市民らの手で作り上げた。蔡さんの立体作品「龍骨」「再生の塔」「炎の塔」を常設展示。


ぶらり発見

季節の魚料理 いわき駅前から徒歩2分、魚処寿々花(問い合わせは0246・23・7189)では、いわき市漁業協同組合仲買人の資格を持つ店主が、地元で水揚げされた鮮魚をはじめ、季節の魚料理を提供=写真。午後5時~11時。原則(日)休み。

 志賀忠重さんが立ち上げた桜の植樹計画いわき万本桜プロジェクトの目標本数は9万9千本。6~9月を除き、毎月植樹会を開催。草刈りのボランティアも募集中。問い合わせは事務局(88・8970)。

(2019年9月17日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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