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アートリップ

久家(くげ)の大蔵・アズレージョ 
ロジェリオ・リベイロ作(大分県臼杵(うすき)市)

溶け合う、友好の「青」

「大航海の夢」「天正遣欧使節」など12テーマの絵が並ぶ。蔵の内部にも3枚の壁画が=楠本涼撮影
「大航海の夢」「天正遣欧使節」など12テーマの絵が並ぶ。蔵の内部にも3枚の壁画が=楠本涼撮影
「大航海の夢」「天正遣欧使節」など12テーマの絵が並ぶ。蔵の内部にも3枚の壁画が=楠本涼撮影 右は、洗礼を受ける大友宗麟=楠本涼撮影

 「アズレージョの前で写真撮るよー!」。引率の女性の声に、保育園児たちが青い壁画へと駆け寄った。大分県臼杵市にある蔵の約30メートルに渡る壁面を飾るのは、ポルトガルのタイル画、アズレージョだ。

 同市は戦国時代のキリシタン大名・大友宗麟(そうりん)の保護の下、西洋文化を招き入れた地。壁画には、南蛮船や宗麟の洗礼の様子が描かれる。保育園の一行は、卒園前に地元の歴史を伝える場所を巡っているのだという。

 臼杵は醸造の町でもある。江戸末期ごろに建てられたこの蔵は、造り酒屋「久家本店」の酒蔵だった。取り壊しの話が出た際に市が借り受け、ポルトガルのアズレージョ作家、ロジェリオ・リベイロさんに壁画を依頼。2000年に完成した。多額の私費を投じて援助したのが、地元の酒造会社社長だった故・小手川道郎さん。リベイロさんと穏やかな笑顔で写る写真が、今も酒造の事務所に飾られる。

 市役所職員として壁画に携わった日廻(ひまわり)文明さん(62)は、当時リベイロさんに、両国の交流の歴史への感謝を伝えた。「涙ぐんで聞いてくれた姿に、仕事を超えて気持ちを共有できる人間味を感じました」。ただの装飾ではなく、臼杵に寄り添う作品だと話す。

 アズレージョの前に立ち、再び眺めてみた。日を受けて光るタイルの青が、臼杵の空と溶け合って見えた。

(中村さやか)

 臼杵市

 大分県の東南部に位置する臼杵市。みそやしょうゆの醸造、造船業が盛ん。大友宗麟が16世紀中頃に築城後、城下町としての歴史が始まった。今も武家屋敷や白壁の蔵など、昔ながらの街並みが残る。

 3月17日まで、久家の大蔵を始めとする市内各所の施設や店舗で「うすき雛(ひな)めぐり」を開催中。江戸時代、臼杵藩で質素倹約が叫ばれるなか許された、紙のひな人形が街を彩る。

 《作品へのアクセス》 臼杵駅から徒歩15分。


ぶらり発見

かぼすブリ

 臼杵駅からバスで約20分の臼杵石仏は、凝灰岩の岩壁に彫られた石仏群。61体が国宝に指定されている。平安時代後期から鎌倉時代にかけて造られたともいわれるが、確かな時期や目的などは分かっていない。540円(3月31日まで一部見学不可のため430円)。問い合わせは事務所(0972・65・3300)。

 豊後水道の急流にもまれたフグが名物だが、エサに特産のカボスを与えて育てたかぼすブリ写真=も人気。酸化抑制成分の作用で鮮度が長く保て、さっぱりとした味わいが特徴という。

(2019年2月19日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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