森万里子作(東京都港区) 滑らかな曲線が美しい弧を描いて上昇しては、緩やかに下りてくる。
生きた木々の枝や幹に直接彫られた50センチほどの仏像群が、差し込む光で金色に輝く。木の葉が風にざわめき、穏やかな仏の顔にアリが伝う。案内板を頼りに森へ分け入ると、ひそやかな世界が広がっていた。美術家・西野達さん(58)の「達仏」だ。
昨年、熊本県津奈木町のアートプロジェクトで制作された。西野さんの構想をもとに、町の森で、熊本市内の彫刻家がチェーンソーとのみで彫った。今夏、23体から33体に増やし、常設展示が始まった。
プロジェクトを主導した、つなぎ美術館の楠本智郎(ともお)学芸員(52)は「作品が放つ霊気や摩訶不思議(まかふしぎ)さが面白い。美しさ、奇怪さを感じる人もいて、現代アートの様々な捉え方を感じます」。老若男女が達仏を見に訪れ、さい銭置き場を作ってほしいという要望も出た。初めに、腐った木に仏を試し彫りしたところ、不思議と木が元気に生き返った逸話もあるという。
西野さんは「津奈木町は人口5千人に満たない小さな町。かつて水俣病の被害も受けた。町の発展と安全を見守るような仏をつくろうと思った」。生えている木に彫られた達仏はどうなっていくのだろう。「誰にも分からないんですよ。それが面白い」と西野さん。「100年、200年とどう成長していくか、すごく興味があるんです」。達仏の足元には、すでに新芽が吹き出していた。
(中村さやか)
津奈木町 熊本県南部、不知火(しらぬい)海と山々に囲まれた津奈木町。甘夏などの果樹園が広がり、タイやフグの養殖が盛ん。1984年から「緑と彫刻のある町づくり」に取り組み、町内には佐藤忠良らの彫刻16体がある。現代美術家の滞在制作などアート活動も盛んに行われ、住民参画型アートプロジェクトで西野達さんは本作のほか、無人島を望む仮設ホテル「ホテル裸島(はだかじま)」を制作した。 《アクセス》肥薩おれんじ鉄道津奈木駅から「達仏」まで車で5分ほど。 |
天然醸造で日本酒を造る酒蔵として日本最南端をうたう亀萬酒造(TEL0966・78・2001)は、創業1916(大正5)年。直売店を併設し、試飲して選ぶことができる=写真。
町待望の美術館として2001年に開館したつなぎ美術館(TEL61・2222)。11月25日まで「ぼくのおくさん 柴川敏之展」を開催中。300円。地元婦人会有志が運転するモノレール(全長241メートル、往復300円)の乗り場が、館内にあり、高台の展望所からは晴天時に不知火海が望める。午前10時~午後5時(入館は30分前まで)。(水)休み。