赤茶色の板に囲まれた建物。すき間から中をのぞくと、お囃子(はやし)が聞こえてきた。ここは一体……。
穏やかな波が寄せる青森港を背に、赤茶色の板で覆われた建物がそびえ立つ。毎年8月に開催される青森ねぶた祭をいつでも体感できる施設として、2011年に開業した「ねぶたの家 ワ・ラッセ」だ。お囃子とともにねぶたの運行を盛り上げるかけ声「ラッセラー」などから名付けられた。
のれんをくぐるように、板のすき間から建物の中へ入る。色鮮やかな外観とは一転、グレーを基調とした落ち着いた雰囲気だ。薄暗い展示室で実物の大型ねぶた5台が、和紙を通した幻想的な光を放っていた。
ねぶたは毎年、ねぶた師と呼ばれる職人が3カ月以上かけて制作する。高さ5メートル、総重量は4トンもあり、同館の佐々木琢也さん(35)は「初めて見ると圧倒されますよ」と話す。1日3回、ねぶた囃子の生演奏なども披露されるという。
建物の基本設計はカナダ・バンクーバーの設計事務所、モロ・デザインが手がけ、日本を拠点にするフランク・ラ・リヴィエレさん(60)ら2人の建築士が構造計算や材料の選定など、実施設計を担当した。
設計の要となったのは、建物全体を取り囲む「ルーバースクリーン」と呼ばれる鋼板だ。幅30センチ、高さ12メートルの板が全部で700本以上。すき間から差し込む光が印象的だ。「青森周辺のブナの原生林に見られる光と影を再現しました」とフランクさんは振り返る。
光の量や質にはこだわった。一枚一枚のルーバーが流れるような曲線を描き、設置の角度もすべて異なる。雪や海風から建物を守る役割も担っている。
建物の外に出ると、すっかり日が暮れていた。ルーバーのすき間から明かりが漏れ、まるでねぶたのように暗闇に浮かび上がる。新型コロナウイルスの影響で中止となっていた青森ねぶた祭は今夏、3年ぶりに開催される予定だ。
(永井美帆、写真も)
DATA 設計:モロ・デザイン、フランク・ラ・リヴィエレ・アーキテクツ、ディーディーティー 《最寄り駅》 青森 |
徒歩約5分、青森県観光物産館アスパム(午前8時半~午後7時、問い合わせは017・735・5311)ではリンゴを使った菓子から津軽塗などの民芸品まで、さまざまな特産品が購入できる。2階「青い森ホール」には客席を取り囲むように360度のスクリーンが設置され、県内の祭りや名所など、青森の四季が体感できる3D映像を上映。650円。