駅前にできた図書館。新しいのは見た目だけではないらしい。どんなところが工夫されているの?
那須高原の玄関口としてにぎわった黒磯駅。東北新幹線が開通し隣の那須塩原駅に停車するようになると、駅前の活気は失われた。
那須塩原市図書館みるるを設計した建築家・伊藤麻理さん(47)は地元の出身だ。街の変化を肌で感じた経験から「高校生もお年寄りも、用事がなくても集まれる場所にしたかった」。
コンペで選ばれた提案を実現するまでは「闘い」の連続だった。たとえば「しゃべっていい図書館」というコンセプト。異論もあったが、ワークショップで市民らの思いをじかに聞いていた伊藤さんは折れなかった。「静かな図書館より大きなカフェがあればいいって。みんな居場所がほしかったんですよ」
館内のイメージは森。多角形の面が連なり連続木製ルーバーが覆う天井は、枝を伸ばす木立を下から見たようだ。広いフロアに数カ所ある吹き抜けの「森のポケット」や、緩やかにカーブする階段の周囲など、「何ということもない=何をやってもいい」場所がそこかしこにある。「飲食OK」も闘った成果で、ふた付きの飲み物なら全館に持ち込める。
駅前側と商店街側の2カ所の出入り口には、図書館につきものの無断持ち出し監視システムがない。「あれがあるとふらっと入れないじゃないですか」。盗難被害額より維持管理費のほうがかさむことを訴えて反対意見を抑えた。
コロナ禍中の新規開館だったにもかかわらず、来館者は同じ地区にあった旧図書館の約3倍のペース。伊藤さんは「闘い切った」満足を感じている。
(片山知愛、写真も)
DATA 設計:UAo 伊藤麻理 《最寄り駅》 黒磯 |
館内のカフェモリコーネ(☎0287・73・8991)では、隣の那須町の「森林ノ牧場」が生産するジャージー牛乳を使ったソフトクリーム(450円)やヨーグルトシェイク(600円)が人気だ。お土産には、チューブタイプの「しぼるヨーグルト」(750円)がおすすめ。(前)10時~(後)7時((土)(日)(祝)は5時まで)。休みは図書館に準ずる。