壁面の難解な数式が異彩を放つ。岡山市中心部にある、段ごとにずらした重箱のような建物は何?
窓も看板もない謎めいた「A&A LIAM FUJI」は、二つの寝室にキッチン、リビングルームも備えた一棟貸しホテル。アーティストと建築家が協働して町のあちこちに一軒家サイズの小規模ホテルをつくるプロジェクトの一つだ。
外壁の数式は2021年のノーベル物理学賞を受賞した真鍋淑郎さんが、地球温暖化予測の研究で導き出したもの。受賞前から真鍋さんの研究に着目していた現代アーティストのリアム・ギリックさんが、エレガントな数式をアートとしてこの建築に、とデザインしたという。
ひと目でわかるかは別にして、この数式は原田真宏さん(48)と麻魚さん(46)が設計を手がけた建物と共通のテーマを扱っている。コンクリートや鉄に比べ環境負荷が少ない木材を主に使っているのだ。
建材は、数枚の板を繊維が直交するよう交互に貼り合わせた集成材(CLT)のパネル。幅約7・3㍍、高さ2・6㍍のパネルを田の字に組み合わせて1層目をつくり、その上に2、3層目の田の字を水平方向にずらして配置。段ごとにずらした重箱のようになっている。
単純な構造ながら、各層をずらしたことで、内部は階段や吹き抜け、開口部や天窓が入り組んだ複雑な空間ができた。入り口から各部屋への動線も一つではない。完成後に泊まってみた麻魚さん自身、「模型で全部わかっているつもりだったのに、わくわくしました。自分で決めて動くことが許される、肯定される気がします」。
「旅の途中にホテルがあるのが普通。でもこの建物はホテルの中に旅がある」と真宏さんは話す。「異邦人、迷子になれる場所として生かしてもらえたらと思います」。
(片山知愛、写真も)
DATA 設 計:MOUNT FUJI ARCHITECTSSTUDIO 《最寄り駅》 岡山 |
岡山後楽園近くの福岡醬油ギャラリーは、かつての醬油製造蔵を改修し2021年にオープンした文化施設。明治に建てられた母屋、昭和初期の離れからなる。28日(月)までの正午~(後)5時、チームラボの展覧会を開催中。千円(お茶代を含む)。(火)(水)(木)休み。お問い合わせ先 石川文化振興財団(086・235・8020)。