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建モノがたり

湖月庵(滋賀県東近江市)

呼吸する道場 息づかいも深く

県内を中心に地元の木材、土を使った。外壁は凹凸が特徴的なドイツ壁
県内を中心に地元の木材、土を使った。外壁は凹凸が特徴的なドイツ壁
県内を中心に地元の木材、土を使った。外壁は凹凸が特徴的なドイツ壁 道場の内壁には全国から集まった左官職人や道場生が手刀の跡を付けた

田園地帯に現れる土色のドーム。小さな古墳のような、巨大な生き物のようなこれは何?

 土壁をくりぬいたような入り口を入るとコンパクトなリビングダイニング、奥には35畳敷きの大広間。湖月庵は合気道などを教える福井千珠子さん(57)の道場兼居住スペースだ。

 福井さんは「自分の道場を持つことが20代の頃からの夢」だった。琵琶湖畔のホテルを偶然訪れた時「これを造った建築家さんに!」と直感、芦澤竜一さん(50)に依頼したという。

 五感、六感に働きかける、建物が呼吸するような道場というのが福井さんのイメージ。芦澤さんはこれをかなえ、山に囲まれ鎮守の森が点在する周囲の環境に呼応する形を考えた。

 骨組みは木造。ドーム形を支えるためには通常、特殊加工で湾曲させた集成材を使うが、今回は板材をずらしながら重ね、合板で挟み込む独自の方法を採用した。特殊な技術や設備がいらず、コストダウンが可能になる。

 「施工はセッション」と話す芦澤さんは、福井さんとともに足しげく現場に通った。現場監督や構造家と顔をつきあわせながら窓の数や位置、道場の神棚のせり出し方などの微調整を繰り返した。

 中でも印象に残るのは東西2面の大きな開口部を造った時。原寸に拡大した設計図を組み上がった構造に貼り付け、その場で鉛筆書きしながら形や寸法を決める〝アドリブ〟だった。

 以前は公共施設などを借りて教室を開いていた福井さん。ここでは「同じレッスンをしても自然と息がより深くなる」と感じている。

(高木彩情、写真も)

 DATA

  設計:芦澤竜一建築設計事務所
  階数:地上2階
  用途:住居、道場
  完成:2021年

 《最寄り駅》 市辺


建モノがたり

 車で7分ほど、霊山として知られる太郎坊山の太郎坊宮(阿賀神社)は勝利と幸福を授ける神として信仰を集める。古くは聖徳太子や最澄、源義経が祈念したとされ、近年はプロスポーツ選手や企業経営者らが訪れる。2018年にはアイドルグループ「ももいろクローバーZ」が東近江市でのコンサート成功を祈願した。

(2022年2月8日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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