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建モノがたり

奈義町現代美術館(岡山県奈義町)

3作品に三つの専用展示室

左の低層の「大地」の中心線は神話が伝わる那岐山頂へ向く。その後ろからのぞく白い建物が「月」、右の円形が「太陽」。磯崎さんはこれらを合わせて六曲一双の屏風をイメージした。原則月休み、9月30日まで臨時休館中。
左の低層の「大地」の中心線は神話が伝わる那岐山頂へ向く。その後ろからのぞく白い建物が「月」、右の円形が「太陽」。磯崎さんはこれらを合わせて六曲一双の屏風をイメージした。原則月休み、9月30日まで臨時休館中。
左の低層の「大地」の中心線は神話が伝わる那岐山頂へ向く。その後ろからのぞく白い建物が「月」、右の円形が「太陽」。磯崎さんはこれらを合わせて六曲一双の屏風をイメージした。原則月休み、9月30日まで臨時休館中。 らせん階段で上がった「太陽」の内部。作品名は「遍在の場・奈義の龍安寺・建築する身体」c 1994 Estate of Madeline Gins.  Reproduced with permission of the Estate of Madeline Gins.

岡山市中心部から約1時間40分。山あいの風景に溶け込む、積み木のような建物は何? 中はどうなっているの?

 鳥取との県境、那岐山のふもとに立つ奈義町現代美術館の常設作品はたった3点。3組の美術家の空間作品のために、建築家の磯崎新さんがそれぞれ専用の展示室を設計した。そこでは作家の仕事と建築の境目が全くわからない。

 円筒型の外観が目を引く展示室「太陽」は直径8・5×長さ18メートル。内部にある荒川修作+マドリン・ギンズの作品は、京都・龍安寺の石庭が壁面に再現され、ベンチやシーソーが無重力の空間に浮かんでいるよう。展示室の軸は南北を指し、自然光で鑑賞する。

 半地下構造の「大地」は、宮脇愛子「うつろひ」のための展示室だ。コンクリートの空間で、弧を描く無数のワイヤが空気の流れでふわふわと動く。天井の開口部からは、青空と那岐山の頂が絵のように切り取られて見える。

 岡崎和郎の金属彫刻「HISASHI」がある「月」は上から見ると三日月形。中秋の名月の午後10時の方向を指す。

 過疎化が進んでいた1980年代後半、町は磯崎さんに美術館の設計を依頼した。磯崎さんは、この場所だからこそ楽しめる体験型の美術館を提案。開館前から携わる館長の岸本和明さんは、初対面での磯崎さんの一言が忘れられない。「10年後、美術館の先駆けになります。今は理解されなくても頑張って」

 初年度は4万人近い来館者があったが、次第に減少。それでも磯崎さんの言葉を励みに地道な努力を続けた。近年、写真を撮って楽しむ若い世代が目立って増えた。県外からの来館者も少なくない。「やっと時代に合ったんでしょう」と岸本さんのほおが緩んだ。


(山田愛、写真上も)

 DATA

  設計:磯崎新アトリエ
  階数:1階(一部2階)
  用途:美術館、図書館
  完成:1994年

 《最寄り》津山駅からバス


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 当初のレストラン棟を改築したピッツェリア ラ・ジータ(問い合わせは0868・20・1171)は、イタリア政府公認の「真のナポリピッツァ協会」が認定した人気店だ。本場から取り寄せた石窯で焼き上げるピザは外はパリッと中はもちもち。ミシュランガイドにも掲載され、県内外から多くの人が訪れる。

(2021年9月21日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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