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建モノがたり

明治百年記念展望塔(千葉県富津市)

東京湾入り口 高さより調和

上り口は七つ。違う高さの各層から眺めを楽しめ、「関東の富士見百景」にも選ばれている
上り口は七つ。違う高さの各層から眺めを楽しめ、「関東の富士見百景」にも選ばれている
上り口は七つ。違う高さの各層から眺めを楽しめ、「関東の富士見百景」にも選ばれている 沖合には明治~大正期に要塞として造られた海堡(かいほう)が見え、さらに三浦半島を望む

岬の先端、シルエットがかっこよすぎ!? 塔といえば上に高く伸びるイメージがあるけれど?

 東京湾の入り口、房総半島から海に突き出した富津岬にある明治百年記念展望塔。7メートル四方の鉄筋コンクリート製デッキ36枚が階段でつながれたピラミッド形は五葉松のイメージからという。

 設計者の池原謙一郎さん(1928~2002)は「スラブと柱が交錯するシルエット、光と影のコンビネーション、夜間照明などの視覚効果も考慮」したと完成当時の建築雑誌に載った文章に書いている。

 造園家、環境計画家、造景作家など様々な肩書で呼ばれた池原さんは、東京都台東区の児童公園にお椀(わん)を伏せたようなコンクリートの「石の山」を設置し、注目された。1964年東京五輪後の代々木公園整備案コンペでは1等なしの2等に入選し、一部を除いて実現した。

 池原さんに刺激されて同じ業界に飛び込み、池原さんが主宰する環境計画研究室の一員として展望塔設計にも参加した東京ランドスケープ研究所会長・小林治人さん(83)は、「緑の環境整備が進み、造園設計の重要性が意識され始めた時代に先駆けとなった人物」と話す。

 「きちょうめんな人で、塔の位置づけを大切に考えた」と小林さん。目指したのは明治100年の足跡となる記念の場と、人々がゆったり景色を楽しむための安らぎの場の両立だ。視界の開けた空間の中では、高さを競う必要はない。周辺と調和しながら、非日常的、意外性のあるものを……缶入りのピースをふかしながら思案する池原さんの姿が印象に残ると小林さんは語る。当時の地元紙が「テラス型の、全国でも珍しい建築形式」と伝えた形はこうして生まれた。

 現在はコロナ禍で人影が少ないが、君津土木事務所の担当者は「緑豊かな自然を求める人々に親しまれる憩いの場」だと話す。


(高木彩情、写真も)

 DATA

  設計:池原謙一郎、環境計画研究室、I.C.D.都市建築設計事務所
  階数:10階(21.8メートル)
  用途:展望塔
  完成:1971年(2004、17年改修)

 《最寄り》 青堀駅からバス


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 明治百年記念展望塔がある県立富津公園は東西約2・2キロの敷地にジャンボプールや運動場、野外劇場、テニスコート、キャンプ場が整備されている。長い間軍用地だったため、自然が多く残り、「富津洲海浜植物群落地」に指定されている。展望塔から車で4分、堀をめぐらせた中の島は明治期に造られた富津元洲堡塁砲台跡。

(2021年8月24日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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