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建モノがたり

信濃町煉瓦(れんが)館(東京都新宿区)

個性派れんがの「ローマの壁」

幅120メートル、エントランスのあるアーチは直径22.5メートル。建物の中心ではない位置に「芯」を置いた
幅120メートル、エントランスのあるアーチは直径22.5メートル。建物の中心ではない位置に「芯」を置いた
幅120メートル、エントランスのあるアーチは直径22.5メートル。建物の中心ではない位置に「芯」を置いた ゴツゴツしたホフマンれんが。目地が広めのため、遠目の印象が変わるという

信濃町駅の目の前、大通り沿いに延びるれんがの壁。クラシックなのに、丸いアーチはモダン。この建築は古いのか新しいのか?

 「私たちはローマンウォール(ローマの壁)と呼んでいました」。設計チームの若手として建設に携わった清水建設の坂井和秀さん(58)は話す。

 2千年前の風景をイメージしながら、アーチ形にくりぬいたエントランス部分はガラスとアルミ。歴史や伝統と先進技術を兼ね備えた建築は、坂井さんが「当社のDNA」と自負する作風をよく表している。

 坂井さんがチームに加わった時、すでに巨大な壁を覆うれんがの準備が進んでいた。が、設計図ではれんがではなく特注タイルを使うことになっている。食い違いが気になった。

 周囲の話で、当初はれんがの代替にタイルを使う計画だったとわかった。設計チーム内では「本当にタイルでいいのか?」という意識があったことも。その矢先、イメージに合うれんがが見つかったという。愛知県安城市の資材メーカー安城資材の倉庫に150万個あった韓国製の「ホフマンれんが」だ。

 旧式の窯で焼かれ、明治の近代化を支えたれんがだが、国内生産は終わっていた。安城資材で今年2月まで社長を務め、現在は相談役・顧問の杉本忠さん(69)によると「いい表情をしているが、ゴツゴツしてひび割れもあるし、扱いが難しいので引き取り手がなかった」。

 れんがの一部は積み、一部は厚みを〝3枚おろし〟にして両側のきれいな2枚をタイルのように張った。スライス加工に毎日20時間で8カ月かかったと杉本さんは記憶する。形と同様色もふぞろいなため5種類ほどに分類し、偏りのないよう配置する手間もかかった。

 「れんがで造ると完成した時は50~60%、そこから成長する」と杉本さんが言えば、坂井さんは「骨太の本物。50年後も古びないと思う」。別々に聞いた2人の話が響き合った。

 

 DATA

  設計:清水建設、内藤設計(企画)
  階数:地下1階、地上6階
  用途:事務所、住宅
  完成:1995年

 《最寄り駅》 信濃町


建モノがたり

 徒歩10分の明治記念館は、6月にリニューアルオープン。館内のカフェ「ラウンジkinkei」(問い合わせは03・3746・7723)では、サイホン式で抽出するコーヒー(860円~、サービス料別)が楽しめる。庭園に臨むテラス席も。

(2021年7月6日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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