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建モノがたり

アクロス福岡(福岡市中央区) 

県庁舎跡 繁華街の里山に

公園の緑が最上階まで連続して見えるよう「混植大刈込手法」が採用されている
公園の緑が最上階まで連続して見えるよう「混植大刈込手法」が採用されている
公園の緑が最上階まで連続して見えるよう「混植大刈込手法」が採用されている 側面から見た「ステップガーデン」。各階がピラミッド状に積み重なる様子がわかる

街中に山? それとも古墳? でも反対側から見るとビル。いったいどうしてこうなっているの?

 全国有数の繁華街・天神にある「アクロス福岡」は、ホールやギャラリー、会議場などが入る官民複合施設だ。春先に訪れ、南の天神中央公園側から屋外の階段を上ると、草や木の濃い香りがし、鳥のさえずりが聞こえた。

 移転した県庁舎の跡地利用の事業コンペには六つの企業グループが応募した。採用されたのは、「ステップガーデン」が目玉の案。設計は日本設計、竹中工務店を中心に米著名デザイナー、エミリオ・アンバース氏も参加した。

 元日本設計プリンシパルデザイナーの淺石優さん(73)は、「公園と建物を緑でつなげようと話しあった。アンバース氏が建物を階段状にしては、と紙を折って示した」と振り返る。自然と共生する建築を得意とするアンバース氏のアイデアをもとに、四季の変化に富んだ里山の自然のしくみを手本にした。

 植栽部分には、真珠岩を焼成発泡させた人工土壌を厚さ50センチ敷いた。軽くて保水力にすぐれ、年によっては雨が少ない福岡でも雨水だけで植物が育つ。根が毛細状になり、伸びすぎないのでコンクリートを傷めにくいのも特徴だ。植えられた樹木は76種。植生はある程度自然にまかせて成長させる計画のため、最初は建物の外壁が目立ったが、数年で緑の大斜面が姿を現した。

 四半世紀後の今、鳥が種を運び自生したものも含め、植物は約200種以上に増えた。剪定した枝や葉はその場にとどめ、腐葉土に。豊富な緑は夜間に冷気流を発生させ、ヒートアイランドの緩和に一役買っている。


(栗原琴江、写真も)

 DATA

  設計:日本設計、竹中工務店
  階数:地上14階、地下4階、塔屋1階
  用途:オフィス、イベントホールなど
  完成:1995年

 《最寄り駅》 天神


建モノがたり

 健脚ならばステップガーデンを上ってみては。1階に入り口があり、階段は計809段。午前9時~午後6時(11月から2月は5時まで)。問い合わせはエイ・エフ・ビル管理(092・751・8591)。

(2021年4月20日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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