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建モノがたり

神奈川工科大学 KAIT広場(神奈川県厚木市)

キャンパスの異世界 憩いの場に

3月末、天井の開口部からは桜の花びらが舞い込んでいた
3月末、天井の開口部からは桜の花びらが舞い込んでいた
3月末、天井の開口部からは桜の花びらが舞い込んでいた 入り口は三つの側面に1カ所ずつ。奥に行くほど光が入りやすいように天井の開口部が配置されている

足を踏み入れると、異世界へ迷い込んだかのよう。大学に現れた白く平べったい建物の正体は?

 中に入ると、床も天井も白一色、壁や仕切りはもちろん柱もはりもない。天井に何カ所もあいた四角い穴からの光が、床面に巨大な抽象画を描く。低く傾斜していく奥のほうは地平線のようにも見えて、建物がどこまでも続く錯覚を覚える。

 約4100平方メートル、テニスコート16面分の多目的広場を設計した石上純也さん(47)がイメージしたのは伊シエナのカンポ広場だ。扇形の要に向かってゆるく勾配がつき、人々は地面にすわったり寝転んだりして思い思いの時間を過ごしている。

 神奈川工科大の別の施設も手がけ、キャンパスの様子を知っていた石上さんは「大勢でも1人でも、学生たちが授業の合間にのんびりと過ごせる空間を造りたかった」と語る。

 大空間でありながら天井高は2・4メートルと普通の家ぐらいなのは、そこで落ち着けるよう「人間のスケールに合わせた」からだ。天井に59カ所設けた1・8~3メートル角の開口部からは風も雨も入り、季節や空を肌で感じる。雨水は透水性アスファルトの床の下を流れ地下タンクにたまる。

 苦心したのは巨大な屋根の溶接だ。どうやって計270枚の鉄板をゆがみなく、なめらかに接合するか。施工した鹿島建設が採用したのは、人より作業が速く一定で精度が高いロボット溶接だった。ロボットである程度の大きさにつないだ鉄板を仮支柱の上に載せ、最後は人の手でつなぎ合わせた。

 今月、学内向けに限定オープン。今後は学内のイベント、ソーラーカーの展示やロボットコンテストなどにも使われる予定だ。情報学部3年の片桐直也さんは、「昼休みなどで一息つける場所として利用したい」と語った。

(高田倫子、写真も)

 DATA

  設計:石上純也建築設計事務所
  階数:地上1階
  用途:多目的広場
  完成:2020年

 《最寄り》 本厚木駅からバス


建モノがたり

 車で約15分のあつぎつつじの丘公園では4月下旬ごろからツツジが見頃を迎える。ヤマツツジやキリシマツツジなど種類の異なる約5万2千本があり、5月上旬ごろまで楽しめる。問い合わせは厚木市環境みどり公社(046・225・2774)。

(2021年4月13日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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