千葉県最大級の公園「昭和の森」と住宅地の間、水平に突き出た構造物は、作りかけのトンネル? 空洞の中はどうなっている?
医療用品メーカー創業者の保木将夫さん(89)が開いたホキ美術館。収集する写実絵画の魅力を発信する場をと、自宅近くのこの場所を選んだ。「一度見たら忘れられず、入ってみたくなる外観」が保木さんの希望だった。
これを念頭に、館に必要なものだけでデザインしたらこの形になった、と設計者の山梨知彦さん(60)は話す。
イメージしたのは絵画だけに集中できるような、廊下のような空間。終点まで見通せてはつまらないので湾曲させる。収蔵品の展示には長さ500メートルの「廊下」が必要だが、敷地の長辺は100メートル余り。5等分した細長い角筒を3本と2本に分けて積み、上から見て松の葉状に配置した。
土地の傾斜も利用して、最上階の1階ギャラリーの一部は宙に浮かせた。先端に支えがなく不安定のようだが、「神社の鳥居と同じ原理で合理的」という。1階は鉄板製。継ぎ目が目立たず軽量な構造を、と船をヒントにした。壁に絵を飾るのにマグネットが使える利点もあった。
館のお披露目には周辺住民の姿もあった。大胆な外観への苦情も覚悟した山梨さんに、ある人は「家のカーテンを開けておいたほうがいいかしら」と、館からの景観を気遣ったという。この建物は日本建築家協会の日本建築大賞などを受けたが、「それ以上にうれしかった。受け入れてもらえたのだな、と光栄に思いました」と話す。
高い塀も門もないせいか、未来的な感じにひかれるのか。館周辺は近所の子どもたちの「秘密基地」にもなっている。
(鈴木麻純、写真も)
DATA 設計:日建設計(山梨知彦) 《最寄り》 土気駅からバス |
併設のイタリアンレストランはなう(問い合わせは043・205・1300)は本格イタリアンと厳選されたワインが楽しめる。ランチコース2800円など。ランチ午前11時半~午後2時(カフェは4時半まで)、ディナー5時~7時。カフェ以外要予約。休みは美術館に従う。(月)はディナー休み。