琵琶湖のほとりに、優美な曲線が印象的な建物。まるで4本足で立っているみたい。なぜこんな形なの?
琵琶湖大橋を東へ向かうと見えてくる建築、実は「楽器」なのだ。上部の窓から風が流れ込み、天井付近に9センチ間隔で張られた128本の弦が振動し、内壁で共鳴することで音が出る。建築家の芦澤竜一さんが、ギリシャ神話の風の神アイオロスに由来する楽器「エオリアンハープ」に着想を得て設計した。風次第ながら音色は神秘的だ。
響きのよい形を決めるため、楽器職人の中川浩佑さんが協力。コンピューターシミュレーションや木製の10分の1模型作製、実寸大の弦を設置した実験など1年に及ぶ検証を行った。
壁は二重構造で、間に10~30センチの空気の層を設けた。内壁は2・5ミリのラワン合板、本物の楽器さながらの薄さだ。床下にも空気を通すため、接地面は極力減らした。建築の役割は物語を作ることと考える芦澤さんは、「巨人がポンと置いていった楽器をイメージしました」。
床を浮かせたのは音のためだけではない。琵琶湖のほとりは陸域と水域のはざまで、生物の多様性が高いとされる。建物が建つと通常はその下の生物多様性は失われてしまうが、浮かせることで小動物や昆虫の通り道を確保した。
鳥の声、揺れるアシがこすれ合う音、波の音。風が奏でる音を聞こうと耳を澄ますと、豊かな環境音があふれていることに気付く。テレビやスマートフォンなど視覚に頼りがちな生活の中、聴覚を呼び覚ます体験が新鮮だった。
(高木彩情、写真も)
DATA 設計:芦澤竜一 《最寄り》 堅田駅、守山駅からバス |
南へ16分ほど歩くと水庭が美しい佐川美術館(問い合わせは077・585・7800)。日本画家の平山郁夫、彫刻家の佐藤忠良、陶芸家の十五代樂吉左衞門の作品を収蔵、常設展示している。午前9時半~午後5時(入館は30分前まで)。1千円。原則月曜休み。