超高層ビルの足元に現れた、オブジェのような建築物。大きくはないが何か気になる存在感が……。
高さ200メートル、裾広がりの損保ジャパン本社ビルの足元、親に寄り添う子象のようにも見える。大きさでは目立たず、外壁の色調も落ち着いている。それでもなぜか目を引かれるのは、曲線と曲面がつくる独特の表情のせいだろうか。
本社ビル42階にあった美術館を移転するため新築されたSOMPO美術館。主な設計者の大成建設設計室長、中藤泰昭さん(50)は、「建物をひとつのアートとして捉え、新宿の文化・芸術のランドマークとなるような建築を目指した」と話す。
同館の中島隆太館長(62)も、「彫刻のようなフォルムで、外観、内装ともに柔らかな曲線を描くデザインを採用しました」。旧美術館開設のきっかけでもあり、収蔵品の中核を成すのは優美な女性像が人気を博した東郷青児。その作品も建築のヒントになっているという。
凹凸の少ない滑らかな面が印象的だが、近くから見ると、外壁には約20センチ間隔の縦じま模様がある。コンクリート型枠の鋼板を溶接する時にできる盛り上がり(ビード)を、装飾として等間隔で施したものだ。中藤さんは、同館が誇る収蔵品の目玉、ゴッホの「ひまわり」のタッチになぞらえ「施工者の筆跡として外観を埋め尽くしています」。
建物の裏側にまわると、壁一面に小さな額縁のような四角形がちりばめられている。近接する本社ビルの窓から見た景色が単調にならないように施されたレリーフだという。来館者に目立たない部分にも「筆跡」は残されていた。
(高田倫子、写真も)
DATA 設計:大成建設株式会社一級建築士事務所 《最寄り駅》 新宿 |
新宿西口の超高層ビル街は、かつて淀橋浄水場があった場所。1898(明治31)年に完成、1965年に廃止されるまで首都の給水を担った。新宿エルタワーそばには「淀橋浄水場址」石碑があり、浄水場正門があったことを示す。また新宿住友ビル構内には浄水場で使われた蝶型弁が保存されている。