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建モノがたり

青山製図専門学校1号館(東京都渋谷区)

街に見いだす「生態系」

外装にはそれぞれ異なる3次元形状の特殊金属やアルミニウム、ステンレスのパネルを273枚使っている=郭允撮影
外装にはそれぞれ異なる3次元形状の特殊金属やアルミニウム、ステンレスのパネルを273枚使っている=郭允撮影
外装にはそれぞれ異なる3次元形状の特殊金属やアルミニウム、ステンレスのパネルを273枚使っている=郭允撮影 振れ止めの役割をもつ3本のパイプ=郭允撮影

巨大なロボットにも昆虫にも見える。空へ向かって伸びるポールや銀色の球体の正体は?

 オフィスや集合住宅、商店が混在する中で、強烈なインパクトを放つ。国際コンペで1位に選ばれた渡辺誠さんが生み出した、奇抜に見える造形の一つ一つは、装飾ではなかった。

 コンペで要求された教室群など以外に、セミナーやプレゼンテーションに使う多目的スペースを提案した。学校には機能が定まっていない空間もほしいとの思いからだ。路地状の敷地は余裕がなく、法規制も厳しい。かろうじて最上階に細長い空間を確保したが、構造上外部から支えるしかなかった。そのために出現したのが、巨大な機械部品のような3本の丸柱だ。

 銀色に光る回転楕円体は、大容量の高架水槽。昆虫の触角のように見えるのは、約40のパーツで構成された避雷針。どれも必要とされる機能から構築され、「勢い」を自由に伸ばしていった結果だという。全体像は決めていなかったが、バランスは自然と整った。実は当初から渡辺さんが目指したことだった。

 ヒントは建物が立地する渋谷の街にあった。整然と計画されたわけではなく、雑多で無秩序に見える。それでも活気があるのは、何か全体を調和させる仕組みが隠れているのではないか。そんな「都市の生態系」を見いだすための思考モデルだったのだ。

 2003年には大規模な補修工事が行われ、完成後30年が経つ今も、金属部分は輝き、生命体をイメージした赤色も鮮やかだ。渡辺さんは、これからも多くの人に愛され、末永く大切にされることを願っている。

(陣代雅子)

 DATA

  設計:渡辺誠/アーキテクツオフィス
  階数:地上5階
  用途:学校(専修学校)
  完成:1990年3月

 《最寄り駅》 渋谷


建モノがたり

 約40メートルの距離にあるかつお食堂(問い合わせは03・6877・5324)は、削りたてのかつお節をたっぷりのせたご飯を中心にした定食「かつお食堂ごはん」(1100円)が人気。午前8時半~午後2時、6時~9時半(ラストオーダーは30分前)。不定休。

(2020年8月25日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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