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建モノがたり

COEDA HOUSE(コエダハウス)、(静岡県熱海市)

海を見下ろす1本の「大木」

カフェではハーブやバラ園にちなんだメニューを提供している。午前9時~午後5時。入園料が必要=伊ケ崎忍撮影
カフェではハーブやバラ園にちなんだメニューを提供している。午前9時~午後5時。入園料が必要=伊ケ崎忍撮影
カフェではハーブやバラ園にちなんだメニューを提供している。午前9時~午後5時。入園料が必要=伊ケ崎忍撮影 8センチ角の木材が積み重なって柱を造り、天井を支えている=伊ケ崎忍撮影

大きな屋根を支えるのはヤグラのような木の柱だけ。眺めを最大限いかしたデザインを可能にした仕組みは?

 熱海駅からバスで15分ほどの観光施設「アカオハーブ&ローズガーデン」に入園すると、相模湾を望む高台に一軒のカフェが見えてくる。新国立競技場(東京)などで知られる建築家、隈研吾さん(65)が設計した「コエダハウス」だ。

 眼前に広がる海、大きな空、園内の花と緑。この中に置く建物として、隈さんが考えたのは「1本の木」。「そこに入った人がどうしたら特別な体験が作れるかを考えたんです」

 四方が全面ガラス張り、外から見ても向こう側が見通せる。建物内に入るとさらに開放感が増す印象なのは、遮る壁や柱がない眺望のためか。中央に陣取る巨木の幹のような「柱」と天井へ続く木組みからは、ぬくもりを感じる。

 「柱」は一見すると、角材を無造作に積み重ねているだけのよう。しかし、8センチ角のヒバ材同士の接合部に穴を開けてボルトを通し、穴の周囲に樹脂を注入して強度と耐久性を確保している。

 屋根を支えるのはこの柱と四隅の細い鉄の棒。しかし、隠れて見えないが、柱の下の基礎から軒先まで、炭素繊維のワイヤを何本も弓なり状に張り渡してある。外からの力でワイヤが引っ張られると摩擦力が働き、震度7にも耐える仕組みという。

 「朝から夕方まで、どの時間帯も景色が素晴らしいです」と話す同園の武茂生さん(43)は、「景観との調和を、リラックスして楽しんでもらいたい」と続けた。

(白井由依子)

 DATA

  設計:隈研吾建築都市設計事務所
  用途:カフェ
  完成:2017年9月

 《最寄り駅》 熱海


建モノがたり

 熱海駅から北側にバスで揺られて約10分。街を一望する高台にMOA美術館(問い合わせは0557・84・2511)がある。展示の鑑賞もさることながら、庭園散策もおすすめ。5月にはパティシエ鎧塚俊彦さんプロデュースのスイーツ店もオープンした。午前9時半~午後4時半。(木)休み。入館料1600円。

(2020年6月9日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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