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【おいしい韓国映画・ドラマ】
『82年生まれ、キム・ジヨン』の「コーヒー(アメリカーノ)」

 韓国の街を歩くと、とにかく驚かされるのがカフェの多さ。カフェの隣にまたカフェという光景も珍しくなく、すれ違う人の多くがコーヒー片手に歩いています。そんな韓国では、コーヒーといったら、アメリカーノ。エスプレッソをお湯や水で薄めた飲み物で、まるで水のように、1日に何杯も飲む人が多いとか。コーヒーといえば、社会現象にもなったベストセラー小説が原作の映画「82年生まれ、キム・ジヨン」(2020年日本公開、キム・ドヨン監督)にも印象的なシーンが登場します。

 第4回 『82年生まれ、キム・ジヨン』の「コーヒー(アメリカーノ)」

Ⓒ2021 LOTTE ENTERTAINMENT All Rights Reserved.

 結婚・出産を機に仕事を辞め、育児と家事に追われる33歳のキム・ジヨン。子どもの頃、炊きたての温かいご飯が出されるのは決まって弟から。高校時代につきまといに遭って父親に助けを求めると、「お前の立ち振る舞いや服装が悪いからだ」と叱られ、苦労して入った就職先ではどれだけ努力しても上司から期待されるのはいつも同期の男性たち――。

 そんな女性の人生に当たり前にひそむ困難や差別を淡々と描いた小説「82年生まれ、キム・ジヨン」。2016年の発売以来、多くの人の共感を呼び、韓国国内だけで136万部を売り上げる大ベストセラーとなりました。世界各国で翻訳され、18年には日本語版も発売。そして、19年には人気俳優チョン・ユミとコン・ユの共演で映画にもなり、翌年には日本でも公開されました。

 映画の冒頭、ジヨンが娘と公園でコーヒーを片手に一息ついていると、居合わせた会社員たちから「いいご身分だよな」「俺も夫の稼ぎでのんびりと過ごしたい」と陰口をたたかれます。さらに、子どもと訪れたカフェでコーヒーを床にこぼしてしまい、「ママ虫だ」と暴言を吐かれる場面も。「ママ虫」とは家事も育児もろくにせず、夫の稼いだお金で遊び回る「害虫のような母親」という意味のネットスラング。こうした世間からの冷ややかな目がきっかけで、ジヨンは精神に異変をきたすようになり、自分の母親や友人の人格が乗り移ったかのような言動を始めます。

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 これらの描写は原作者チョ・ナムジュさんの実体験に基づくものだと、後に本人が語っています。1978年生まれのナムジュさんは大学卒業後、約10年間、調査報道番組「PD手帳」などの放送作家を務めていました。しかし、育児に専念するため仕事を辞め、専業主婦に。そんな中、娘と連れて訪れた公園でアメリカーノを飲んでいると、見知らぬ人から「ママ虫」とののしられたそうです。

 この経験から、ナムジュさんはどこにでもいる1人の女性、キム・ジヨンを主人公にした小説の執筆を始めます。キム・ジヨンという名前は、韓国でも最も多い名字「キム」と、82年生まれの女の子で1番多い名前の「ジヨン」を組み合わせたもの。どこにでもいそうな女性だからこそ、誰もがジヨンに自分自身や周りの人を投影し、これほどまで共感の輪が広がったのかも知れません。

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 映画では描かれていませんが、原作ではジヨンが夫に向かって、「私は1500ウォン(約150円)のコーヒー1杯も飲む資格もないの?」と怒りをぶちまける場面が描かれています。韓国人にとってコーヒーとは本来、低価格で、ほっと一息つけるもの。最近は、特大サイズのアメリカーノが1杯1500ウォンという激安チェーンも登場し、ますます身近な存在となっています。

 それを示すかのように、2021年の韓国のコーヒー輸入量は18万9502トンで、過去最高を記録しました。さらに国税庁の統計によると、コーヒーショップの店舗数は21年12月時点で8万3363店と、4年前の17年に比べ88.2%も増加。この数はコンビニエンスストアやファストフード店よりも多いそうです。これらの数字は、コーヒーがいかに韓国人の生活の一部になっているかを表しています。


(イメージ画像)

 そんな韓国人にとって、コーヒーといえばアメリカーノ。20年に韓国スターバックスが発表した世代別人気メニューランキングでも、10~50代までのすべての年代で「カフェアメリカーノ」が1位でした。ちなみに、「アイスアメリカーノ」は略して「アア」。また、氷点下を記録するような冬でもスッキリしたのどごしを求め、「アイスアメリカーノ」を飲む人が多く、そこから「オロ チュゴド アイスアメリカーノ(凍って死んでもアイスアメリカーノ)」、略して「オルチュガ」という造語まで生まれています。

 それほどまでに韓国人に愛されているアメリカーノ。日本ではあまり一般的ではありませんが、韓国を訪れた際はぜひ味わってみたいものです。

【作品情報】

「82年生まれ、キム・ジヨン」

製作年 2019年

製作国 韓国

監督 キム・ドヨン

出演 チョン・ユミ、コン・ユ、キム・ミギョン、コン・ミンジョンほか

Ⓒ2021 LOTTE ENTERTAINMENT All Rights Reserved.

発売元 クロックワークス

販売元 ハピネット・メディアマーケティング

価格 5280円(DVD)、6380円(Blu-ray) ※DVD&Blu-ray発売中

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